El Polizon 〜 密航者 〜

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 ……クソっ! こうなれば、小便がしたいと嘘を吐くいつもの手で……。 「ただし便所の時だけは言えよ? ロープで縛ったまま舷から吊るしてさせてやる。倉庫でしやがったら即サメの餌だからな。そうだ。念のため足枷も嵌めといてやれ」  ……なんてことだ。意外と用心深いこのゴンサロスという海賊は、逃げのテクニックを駆使した最後の手段までをも先手を打って封じてくれる。 「オラッ! 向こうに着くまでここでおとなしくしてな。大事な商品だ。死なねえように飯はくれてやらあ。ヒャヒャヒャヒャ!」 「うぐっ……痛てててて…」  そうして、下品な笑い方をする手下により、僕は上甲板に開いた四角い穴から、積荷を入れておくための船倉の中へ突き落とされた。  床に倒れたまま頭上を見上げると、僕の身長の倍はあろうかという高い位置に空いた入口に、格子状になった覆いでしっかりと蓋が閉められている。  登り降りの際には梯子を下すようだが、もちろん今はそんなものもない。  あちこち痛む体をなんとか起こして周りを見回すと、確かにゴンサロスの言っていた通り、その中はほとんど空っぽだった。  そのために四方を囲む壁がまる見えだが、船体の真ん中に設けられた空間なので窓一つありゃしない。  唯一出入りできるのは、背の届かない高さにある格子のはめらた天窓だけ……ここは、牢獄代りというより、まさに牢獄である。  おまけになんとかここを抜け出せたとしても、周りはどこまでも続く大海原だ。  いくら逃げるのが得意な僕であっても、これでは手の打ちようがない……万事休すである。 「クソっ! 奴隷になんかなってたまるか! 何か…何か逃げ出す手は…」  それでも、せっかく一念発起して新天地を目指したというのに、奴隷として売り飛ばされるなんて冗談じゃない!  僕はわずかに残るガラクタのような積荷を漁ると、何か使えそうなものはないかと必死に探した。
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