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すると、壊れかけた木箱の中に古い本が乱雑に放り込まれているのを見つけた。
書籍もそれなりの高値で取引されるものだが、売り払わなかったのだろうか?
本国より出版文化の未発達な新天地の方が高価く売れると踏んだのだろうか? それとも、どうにも学問とは無縁そうなやつらなので、単に本の値打ちがわからなかっただけか? ともかくも、ちょっと興味を覚えた僕はどんなものがあるのか取り出してみた。
今では乞食同然の暮らしぶりだが、これでも一応商人の子、読み書きは小さい頃からみっちり仕込まれている。
掠れた表紙の書名を見てゆくと、内容は雑多で地理や歴史、植物学の本から文芸書までいろいろある。
まあ、どれもだいぶ傷んでいるので、確かに高値は付かなそうだが……
「これは……!」
だが、その中に一冊だけ、とんでもないものを僕は見つけた。
魔導書である。
黒い革表紙で装丁されたもので表には何も記されていないが、中を見ればそれは明らかだ。
外からでは見えない中表紙には『Goetia』という書名が記されている。
魔導書――それはこの世の森羅万象を司る悪魔を呼び出し使役することで、様々な事象を自らの思い通りにするための方法が書かれた魔術の書である。
その絶大な効力から、宗教的権威であるプロフェシア教会やその影響下にある国々では無許可での所持や利用が厳しく禁じられている。
それでもまあ、その魔術はあらゆる面で有益なので、こうして違法に海賊版が出回っていたりするわけだが……。
航海にも海や風を司る悪魔の加護が不可欠だし、海賊にしても欲しがりそうなものなのだが、やつら、ろくに調べもせずに見過ごしたのだろか? あるいは、もうすでにやつらの航海士が同じ写本を持っていたか……。
いずれにしろ、これは僕にとって一筋の光明である。ここに記された魔術の中に、何かここから逃げ出す方法があるかもしれない!
格子天井から充分に光は入ってくるし、皮肉にも読書をする時間は充分過ぎるほどある……僕は海賊達の目も気にせず、その魔導書を読み耽った。
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