そくせき

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そくせき

 さむい。 ここはどこだろう。 ぼくは何をしているのだろう。 どのくらいの時間が立ったのだろう。 暗闇と遠くから聞こえる・・・ 音? 声? 壁の向こうから聞こえるがはっきりしない。 となりのやつも前のやつも、もう何も発しようともしない。 眠り続けているのだろうか、はたまた運命を察しているのだろうか。 こんなきついところに押し込められ、息苦しいように思う。 そう言えば、空気も薄くなってきたように思う。 どうしてこんな目にあっているのか、ひどい扱いが続いているのか誰か教えてくれ。 狭い空間に押しつぶされるように詰め込まれ、なすすべなく揺られてどこへ行くのか。 ほんの一瞬、下界を臨めた気がした。 でもそれも一瞬だった。 整列を余儀なくされ順番を待つのは永遠に続くように思える。 さらに寒さが増した。 いつまで突っ立ったままでいなければならないのか。 行列はいつしか長くなり、僕は入口を通り抜けた。 後ろにもうつろな奴らが並んでいる。 いつまで耐えられるだろう。 そういえば、やたら寒いのはこの行列が始まり機械音が大きくなってからだ。 この寒さはどこまで続くのか、この道が正しいのかはすでに僕たちの考える範疇じゃないのかもしれない。 でも、前に進むしかない。 その先に光が見えるまで、ただひたすら前に進むしか手立てがないのだ。 そしてまた、どのくらい時間が過ぎたかわからないうちに次が自分の番のようだ。 長かったのか、短かったのかわからない。 その瞬間は突然だった。 夢を見て落ちたような衝撃とともに、この前見たような明るい光のもとにさらけ出された。 暴力的に扱われたショックも癒されぬまま、暗闇から解放されつつも乱暴に扱われた。 全く見知らぬ風景がそこにはあった。 そして、おもむろに放置された。ありがたかったのは、寒さから解放されたことくらいだった。 その意識が僕の最後の記憶・・・ 「いらっしゃいませ。こちらでお召し上がりですか、それともお持ち帰りですか。」 スマイル0円の笑顔が出迎えてくれた。 僕は、ドギマギしながらも 「あ、持ち帰りで。」 と、いつも通りのセリフを言う。 「ご注文はお決まりですか?」 さらに畳み掛けてくる笑顔に圧倒されながら、今日の昼ごはんを急いで決めなければならない切迫感に、さほど考えもしないで 「あ、えっと・・・あ、Aセットで。」 と答えた。 (チキンにしようと思ってたのに・・・) と、悔やんだが笑顔の人は次の質問を投げかけてくる。 「セットはどちらになさいますか?」 今日の僕は、笑顔に完敗してしまった。 「あ・・・えー、あ、ポテトで。飲み物は、ホットコーヒーを、お、おねがいし・・・。」 「かしこまりました。」 セリフの上に被せられた確認のための復唱を、ただ間抜けな半笑いで聞いていた。 復唱が済んだ際に番号を言い渡され、レシートと一緒にその番号が印字された用紙を手渡され、ここで待ってほしいと言われた。 君が一緒に帰ってくれるなら、いつまでも待ちますよ。 ありえない現実を妄想しながら、少しだけ見える製造側のエリアを見て待つことになった。 1本だけ落ちているポテトと目があった。 ポテトは無残にも踏まれて、作業場に油の足跡をつける手伝いをしていた。 何往復目かの、製造側のスタッフが向こうからこっちに来た時に気がついたのか、近くにあったホウキとちりとりでポテトは取りのぞかれた。 何時間掛けてここまでたどり着いたのかわからないが、今残されているあいつのあった証は、閉店後には消える足跡だけなのかと思うと、妄想して笑えている僕の方が少しだけマシな気がしてきた。 出来上がった熱々のセットを手に、午後の仕事に思いを馳せた。
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