cérémonie de marriage  ~manière拾遺~

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大正十年(一九二一年)早春。 京都の内、昔左京五条と呼ばれた辺りに居を構える佐倉家。 軒先の門松もそろそろ片付けて、供え餅を割ろうという時期に、その封筒は届けられた。 「孝平はん、東京の御祖父様から御便りが来てはりますえ」 郵便受けの年始の便りを仕分けながら居間に戻って来た佐倉露が、一際分厚い封筒を店子の西園寺孝平に差し出す。 「珍しい…というか返って何事かと身構えてしまいますよね。こちらに来て初めての便りですから」 屏風折に畳まれた長い料紙を腕を大きく伸ばして左右に開くと、一見しただけでは何を記されているか解らない達筆がつらつらと連なっていた。 「孝平は去年も帰らなかったからなあ。今年こそゆっくり戻ってみたらどうだい」 膝の上で丸まっていた三毛猫の豆助の毛並みを整えるように撫でていた正人は、まるで人事のように言った。 「それを言うなら正人さんも卒業まで一度も博多に戻らなかったじゃあないですか」 視線を斜めに送りながら手紙を読んで居た孝平は、読み終える頃には苦笑を浮かべる。また西園寺卿の酔狂が始まったと云いた気に、 「――それに祖父の思惑からすると帰省を促す内容とはいっても、どうやら俺は(つい)で…というほうが良いのではないかと」 「(つい)で?」 「――年始の挨拶に上京しろ、ついては必ず正人さんを連れて来いと書いてあるのですよ」 「私を?」 指名を請けた正人は困惑して居たたまれなく成ったのか膝を立てる。腹を蹴られた格好に成った豆助が非難する如くに一声上げる。 「あ!マメスケ~!痛かったな!済まない済まない」 (マメスケ)が去っては足の辺りが寒くなってしまう。蹴上げたと思われる部分を懸命に摩りながら、豆助の御機嫌を取り結ぼうと必死である。すっかり東京行きの話は如何でもよくなって仕舞っているようだ。 「まあ、あの祖父がわざわざ呼びつけるのですから何らかの魂胆があってのことですよ。その覚悟を持って戴かないと絶対に勧めませんよ。私は呼びつけられる度に良い様に使われてますからね」 祖父不審に陥っている孝平は渋い顔で言う。 「そんな意地の悪いこと仰らず、折角御呼ばれされたんやから、上京されはったら如何どす?正人はんも東京へ行かはったこと無いて云うてはったでしょう」 代わりにうちが行きたいわぁ、と露は羨ましそうに言う。豆助が再び膝の上で昼寝を決め込んだことに安心した正人も、呑気に答えた。 「僕も構わないよ。西園寺卿はいつぞやの事件の影の功労者じゃあないか。御礼を言えなかったのが心残りだったんだ」
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