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「西園寺さんのように?」
「とんでもない!俺は正人さんにはとても及びません」
「あら、謙遜なんて貴方らしくないわ。――これから帰って私が夢乃さんを突き飛ばして席を乗っ取ったりしないように、しっかり私を抑えて貰わないと困ります」
孝平は笑顔を返す。
「師範代に盾突こうなんて恐ろしいことは出来ないです。それに――そんな冗談が言える位だから、貴女はもう大丈夫」
「――そうね。私は大丈夫」
自分に言い聞かせるように、明日香は繰り返した。
感嘆の声と共に明日香の溜息が横で聴こえる。
「夢乃さん、本当に綺麗…」
揚帽子から覗く横顔の口元だけで、その美しさが解るのだから、明日香ならずとも誰もが花嫁に目を奪われて居るのだろう。
「――とても体当たりは無理ですね」
その隣で悪戯そうに孝平が囁く。
「意地悪ね。でも――此処に居ることが出来て良かった。有難う、西園寺さん」
長かった片恋に終わりを告げた事を見届けて、明日香は満足していた。
日付が変わることも忘れようと、
名残は尽きずに宴の席は続いている。
了
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