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ある日、突然、彼が私を抱えて庭に出た。深い穴が開いている、傍に立っている男性が掘ったのだろう。彼は私に何度も謝りながら、必ず迎えに来るからと言って、私を木箱に入れてしまった。暗い。外の様子が分からないが、私はどうやら穴の中に入れられて、上から土を被せられているのだ。私の傍らにはほかのものもあったけれど、それらからもどこからも、何一つ音は聞こえなかった。
しばらくして木箱を開いたのは、あの少年ではなかった。ほつれた髪も、煤に汚れた頬も気にすることができない、暗く落ち込んだ眼差しをした、彼の母親だ。
彼女は私を見下ろして、静かに泣いた。嗚咽もかぼそい。私に自由な両腕があったならば。
彼女のかなしみが薄れるまで、ずっと抱き締めているのに。
その後の彼女の生活は、片隅から見守っていた私が見ていても楽なものでは無かったはずだ。だが、彼女は決して私を手放すことはせず、壊すこともせず、ときおり思い出したようにそっと触れて、また大事にその場所へ戻すのだ。
私が彼女の傍を離れたのは、彼女が眠ったあと。彼女と一緒に遠くへ行くはずだった。あの少年に会うために。だが、誰かが私を拾い上げた。
「…… あなたはもう少し、もう少しだけこちらに居りなさい。いつか、またあなたを必要とする人がいるはずだから」
夜の淵の中、影になってしまったその人は顔も見えないが、静かにそう言って私を荷物の底の方へと詰めた。
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