第一話 鳩は掃き溜めに舞い降りる②

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第一話 鳩は掃き溜めに舞い降りる②

「特殊と言いますと?」 「基本的に毎日の出勤は自宅から直接、殺人の現場に出向いてもらう。そこで犯行の痕跡を洗いだすのが仕事だ」 「捜査が終了しているのに、ですか?」 「そうだ。捜査が終わってからがこの男の出番なんだ。いずれわかるよ。掃き溜めみたいな場所だが、まあ腐らずにやってくれ」  そう言うとダディは目で会議テーブルを示した。さすがに脅したりはしないにせよ、あの顔と声ではさぞ、びびっていることだろう――そう思って沙衣の顔を見た瞬間、俺は思わず目を瞠っていた。沙衣は丸い目を大きく見開き、しきりに首を傾げていたのだった。 「あのう……私の机は、どこですか?」  善良そのものといった顔立ちの新人婦警は、さも当然のように言い放った。 「机?……面白いことを言うお嬢さんだ」  俺は精いっぱい、凄みをきかせた声で言った。だが、お嬢さんの反応は俺の予想の上を行くものだった。 「もしかして、このテーブルと椅子ですか?……違いますよね?」 「もしかしなくても、そうさ。俺にも専用の机はない。そもそもこの部屋に配属された人間がここで業務をすることはほとんどない。まさか三人しかいない部署に、一人づつ机が支給されるなんておめでたいことは思っちゃいないだろう?」  俺が言い切ると、沙衣はぽかんと大口を開け、呆れたようにこちらを見た。 「いくら何でも机もないような部屋では、仕事ができません」 「机ならあるじゃないか、立派なものが。パソコンだって置けるし、資料を積んでおく隙間だってある。何が不満だ?」 「そうですね……」  沙衣はダディと俺の顔を交互に見ると、すうっと息を吸った。 「しいていえば、先輩刑事の対応が不満です」 「なんだって?」 「てっきり指導を受け賜われるものとばかり思っていましたが、恫喝するしか手段を知らない先輩ということであれば、私も覚悟を決めるしかありません」 「ほう、どうするんだ?先生に言い付けるか?それとも泣いてお家に帰るかい?お嬢さん」 「……私が教育するしかありません」  俺は言葉を失った。さすがに署長の肝入りだ。鳩かと思いきや、中身は猛禽類らしい。 「カロン、お前、この子になんかあだ名をつけてやれ」 「そうすね……鳩に似てるからポッコちゃん、なんてどうすか」 「ほう、いいね」 「ぜ、絶対に嫌で……」 「よし、それじゃあポッコ君、これから現場に出向くからついておいで」 「あのう、本人の意向とかそういうのも重要かと」  控えめな口調でに抗議を始めた沙衣に、ダディがにやつきながら追い打ちをかけた。 「カロンはマイペースだから、目を離さんようにしろよ。ポッコ」 「あのう、そういうのってパワハ…………」  不服そうな表情で俺たちを見ていた沙衣の目が突然、驚いたように大きく見開かれた。 「どうした、ポッコ」 「カロンさんの背中から……」  俺はぎくりとした。今、まさに「あいつ」が目ざめたところなのだ。  ――まさか、この娘「視える」のか? 「……いえ、なんでもありません。たぶん、わたしの気のせいです」  沙衣はこころなしか血の気の引いた顔でそう言うと、眼鏡のブリッジを手で直した。
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