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第10話 この世ならざるもの、眠れ②
――いったい、何が起こったんだ?
死神の目を通して動かなくなった巨漢を眺めていると、カフェの入り口に銃のようなものを構えている人影が覗いた。
――明石だった。明石は固い表情のまま入ってくると、俺に気づいて目を瞠った。
「刑事さん……どうしてここに?」
「助かったよ、明石さん。……この化け物にいったい、何をしたんだい?」
「これ以上、暴れられては困るので非常手段に訴えました。針を打ちだす特殊な銃です」
明石は前回会った時とは打って変わって、懊悩が滲んだ口調で言った。
「刑事さん……勝手なお願いであることは承知の上で申し上げます。この一連の騒ぎを通報しないでおいてくれませんか」
「ああ、構わないよ。俺もあれこれ聞かれるのは面倒なんでね。……その代わりと言っちゃあなんだが、この化け物について説明してくれんかね」
俺が質すと明石はふっと自嘲めいた溜息を漏らした。
「そうですね。あなたには言わなければならないでしょう。……こいつは、このビルの中にある「アンフィスバエナ・フィジカルプロジェクト」で新製品のモニターをしている人物です。非常に気性が荒く、開発スタッフともめた挙句、製品を身に着けたまま部屋を飛びだして暴れ出したんです。事故とは言え、責任はプロジェクトが負わねばなりません」
「なるほどね……こんどそのプロジェクトについてお話を伺っても構いませんか」
俺は警戒されることを承知で、明石に切り込んだ。だが以外にも明石は「いいですよ。我々としてもこんなことであらぬ誤解が広まっては困りますからね。包み隠さずお話しましょう」と答を寄越した。
「カロン、大丈夫?」
沙衣が血の気のない顔で、俺の元に歩み寄ってきた。俺は「ああ」と短く返した。
「刑事さん……あんな怪物とわたりあってよく、無事で済みましたね」
おずおずと近寄ってきたハンクが言った。傍らの秦は巨漢を興味深げに見下ろしていた。
「これじゃあいけないな。ファイターを作るつもりでモンスターを作ってしまうとは」
秦がかすかに笑いを含んだ声で言うと、それを聞いた明石が不快そうに顔を歪めた。
「刑事さん、お話はまた日を改めてということにしませんか。ここの片付けもあるので」
明石の申し出に、俺は即座に頷いた。……と、俺のポケットでまた箱が小さく鳴った。
――何を感じたんだ?「被害者」さんよ。
俺は目の前にいる人々をかわるがわる眺めながら思った。明石だろうか。それともハンクだろうか。いずれにせよ、怪しい人間たちと言わざるを得ないだろう。
――お前さんがもう少し、ヒントになるようなことをしゃべってくれたらなあ。
俺はポケットを上着の上からぽんと叩くと、沙衣の方を振り返って「帰るぜ」と言った。
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