第12話 人の姿に似せし黒き影たち②

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第12話 人の姿に似せし黒き影たち②

「いい心がけですな。言っておきますが小細工はなさらぬ方がお互いのためですよ」  俺は再びジャブを繰りだすと感情を消し去った明石に促されるまま、部屋を出た。  通された部屋は試作品と思われるスーツを着た人形が並ぶ、小奇麗な会議室だった。  人払いをしたらしい部屋で俺たちを待っていたのは、白髪交じりの痩せた男性だった。 「ようこそいらっしゃいました。私が「アンフィスバエナ・フィジカルプロジェクト」の開発主任で取締役の芦田です」  白衣に身を包んだ芦田と名乗る男性は、俺たちに好意的な態度を示してみせた。 「明石君からお聞き及びのことと思いますが、当プロジェクトの目的は人間のフィジカルな可能性を追求すること、それを強化するスーツを用いた新しい格闘芸術を提唱することにあります。当然、その過程で得られた技術的なイノベーションを医療、福祉等の分野に還元するという社会的使命も同時に担っていくつもりです」  挨拶もそこそこに自慢話をねじ込まれ、俺はすっかり白けた気分になった。 「御託はわかった。……で、その自慢のスーツがここから消えたことはあるのかい」  俺は芦田の得意顔に自分の鼻先を近づけながら言った。 「……管理を担当していたものによると、行方がわからないロットがいくつか確認されているそうです。……私は研究所内での一時的な紛失と把握していますが、それ以上のことはわかりません」  芦田は紛失を認める一方、落ち度はないと言わんばかりの憮然とした態度を示した。 「ほう、そうかい。……いいかい、ここからはお互い腹を割って話したいんだが、万が一、お宅で開発したスーツが暴行や殺人の際に使用されたことが判明したら、どうする?」 「それは使用する人間の問題です」 「世間はそうは見ないと言ってるんだ。……いいか、俺たちは殺人事件の犯人を追っている。事件さえ解決すれば、犯人がナイフを使おうがスーツを使おうが関係ない。あんたたちの研究がどんな反社会的な連中に利用されようと、それは俺たちの捜査とは無関係だ」 「何をおっしゃりたいのです」 「知ってることがあるんなら、ここで残さず話してもらいたい。ようは俺たちが追っている事件と関連した情報が欲しいんだ。あとのことは聞かなかったことにする……どうだ?」 「そう言われましても……少々、事実を確認する時間をいただきませんと」 「ようし、決まった。無くなったスーツの数に持ちだした疑いのある人間のリスト、消えたと思われる日時等、わかったことをすべて報告しろ。いいな?そんなには待たないぞ」 「……わかりました。そのようにはからいます」  俺の勢いに呑まれた芦田は、不承不承と言った体で頷いた。 「これで事情聴取は終わりだ。ありがとう、ご協力感謝するよ」  俺は芦田に一礼すると、なぜか険しい顔つきで控えている紗枝に「行くぞ」と顎をしゃくってみせた。
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