プロローグ

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 そんな中、  「…何やってんの…」  黒髪の美少女が一人、やはり一糸纏わぬ姿で巨大な川の畔にしゃがみ込み、使用済みの紙コップに入っている液体を指に付けては体に塗りたくっていた。  まだ幼いながらもその肉体は丸みを帯びており、乳房もCカップかDカップはあるまでに育っており、処理してから時間が経ったのか下の方も少しだがまた伸びてきており、滴り落ちる液体が艶めかしさを演出する…。  「…いつ…アイツらがやって来るかも分からないのに…」  淫らな光景と、無数の甘美の声、そして出したモノから発せられる悪臭でこの場は混沌としていたが、しかし私はそんな事を気にしていられなかった。  程良い大きさの双丘の下から覘く、腹部の真ん中にある、鳥形の痣。  日が沈む時、これは白く光り、自分達は狩人達の獲物となる。かと言って、今の私は下着すら身に着けようものなら痛みと苦しみに悶える事になり、余計に奴らに目を付けられてしまうし、もう寒さは感じない。  その証拠として、  「ウチのクラス、フツーに服着られるのが増えてるんだけど、羨ましいと思わない?コートだって着てるし、ブラとパンツも着けてんだよ?」  「いやいや、その人達が本国か外国出身だったらどうすんのよ、どっち道、胸やお尻を平然とさらけ出したり、体から出した物を塗りつけてるあたし達の方がおかしいのよ…」  「おいおい、さっきの女同士のエッチの時にチ…コから白いの吹き出したろ、おれ見てたぞ」  「お前なんかゲリしながら見てたよな、こっちまで臭いがきてすっげークサかった」  私自身もそうだが、まだ冬だというのに誰もが、学生鞄を持ってきている以外は全裸でここに来ている。サンダルすら履いてないし、体が砂や排泄物塗れになっても気にせず、半ばパーティー会場となったこの『準備室』に集まっている。  旧政府の圧政の賜物…と言うのも勿論あるが、誰もが、外国や本国出身の者を除き、子供は公共の場であっても産まれたままの姿を晒す事、成人するまでパンツすら穿けない事…それらが暗黙のルールとして当たり前になっている。尤も、住宅地や都会に住む子供は、誰もが戦前のように衣服を纏っているが、山間部で暮らす私達は、特別な行事や旅行の時以外はこの姿のまま過ごす。  奴らの『獲物』かどうかを区別する為の痣は、自分以外の全員にも存在する。  浮き出た位置は人それぞれ異なるが、夜になるとここに居る全員が狩猟の対象になる…油を売っている暇はない。  実際、  「よし…ここまで塗れば寄りつかないよね~」  「まあ、これくらいでいいでしょ」  「なあ、ここだけ塗ったら恥ずかしくね?」  「いいじゃん、ソイツが女だったら、今のおれのコレを見てキャーキャー言って逃げ出すかもよ?」  「これならオッパイ吸われないし、突っ込まれないからレイプ対策にもなるよね~」  「じゃ、あたしはこのままナカに入れちゃお~」  誰もが、顔から乳房、ヘソ、局部、足指…と、全身に隈無く自分が出した物をペースト状にして塗りたくる、ボール状に丸めてビニール袋に詰める、出した物を塗りたくるだけでは飽き足らなかったのか、塊のまま…兎に角、ここにいる誰もが、自分の出来る『防犯対策』を施し、悪臭を漂わせながら立ち去る。  小便しか塗りたくらない自分からしたらドン引きだが、誰もが必死なのだ、何も言い出せない。  「苦っ…口の中にウンコが入ったかも…」  「だから言ったろ、串にしとけって」  「ウンチやオシッコが乾いちゃう前に、急いで帰るよ!」  「待ってぇ、引っぱらないでお姉ちゃん!」  歩道を歩く少年少女達も、その多くが排泄物で体を塗りたくっており、中にはその手で食べ物を掴んで頬張る者もいた。  そんな彼らを見る大人達は、多少嫌な顔をするだけで、注意する者はおろか、その多くが声すらかけなかった。  『一日でも早く、大人になるまで生き延びたい』  …誰もがその事情を、望みを分かっているからだろう。
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