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私の弟がこんなに可愛いわけがない。
私には目に入れても痛くないと思ってしまうほど大切な弟がいる。
これが世界で一番可愛いらしい――どれほどの可愛さかと言えば、全世界中にいる美少女を集めてその中で生活していたとしても、弟が一番可愛いらしいと誰もが結論づけてしまうほど、整った容姿を持ち併せている。
あらゆる芸能事務所のスカウトが、性別が男子ということで、さすがに男性では水着のグラビアが撮れない、ということで諦めて帰ってしまった――なんてエピソードがいくらでも存在している。
容姿に関してそれなりの自信を持っている乃絵美ですら、弟のことは可愛らしいと褒め称える。彼が褒められると私も鼻が高い、自慢というのは自分自身の事しかしてはいけないものだとわかっていても、私に自慢できる部分などほとんどないせいか、会話の種になるのは弟の可愛らしさが中心になっている。
弟が成長を果たし、もしかして自分の性別が男性と呼ばれるものではないのか――そんなふうに疑問に思い、私がベタベタするということに対して嫌気を感じ始めたそんな時期。
よもやそんなことはあるまいとタカをくくっていた私も、女の子の格好が嫌だと反発した時には、成長するというのは良い面も悪い面も存在するということに気がついた。
彼の意思を尊重して、女の子の格好をする時は私の目の前だけでという条件をつけたものの、女装することが嫌だと言う問題の解決策にはならなかった。
姉である私が可愛らしい可愛らしいと頭を撫でることも、女の子の格好をしながら姉妹みたいに街を練り歩くこともできないものか、当時の私は随分と思い悩んだものだ。
友人である乃絵美はバカバカしいものを見るような瞳で「少しは弟離れをしなさい」なんてことを言い放った、彼女はおそらく私がブラコンであることに対して嫉妬している。
いじめられた際に助けてもらったことがそんなにも嬉しかったのか、彼女は毎年本命だというチョコレートを私に贈っている。
最初は弟に懸想をしているのではないかと思ったけど、いつだって彼女の本命は私であるらしい、感謝の気持ちを伝えてくれるのはありがたいけれども、私はノーマルだと思う、ノーマルでなければ単なる弟好きなのだと思う。
そうそう、彼の名前は「雪姫」というものである。
なんでそんな名前をつけたのか、私は両親に聞いたことがある。
女の子が生まれると思っていたから――という答えが返ってきた、確かにそれは思春期の男の子には伝えられないと思われる。
ややもすると自分自身が望まれずに生まれたのではないか――思春期というのは些細なことで思い悩む時期であるから、それは違うと否定したところで、お前はブラコンだからそんなことを言うのだ、そのように反発をされてしまえばそうだと力強く頷いてしまう。
私の言葉を信じてもらうにはさらに言葉を重ねるしかない。こちらがベタベタすることに嫌悪感を生じている彼に、自分はとても大切に思っているとベタベタとしてしまえば、彼はおそらく私のことを嫌ってしまったに違いない。
そこで私は男性の心理を知ってみようと思うことにした。
当時の私はそれなりに女の子らしくなっていたと思うし、乃絵美も私のことは美少女であると褒め称えている。彼女は何かにつけて私を褒め称える、自分の方がよっぽど優れた容姿をしているにもかかわらず「智絵里は世界で一番かわいい」「宇宙一かわいいよ!」なんてことを言う。
何かにつけて褒め称えるので、彼女のおべっかを基本的に信頼していない。
性別も間違いようもないほど胸が大きくなってしまったので、男性心理を知るということになれば恋人の一人でも作らなければいけない、大真面目な顔をして「弟に好かれたいから恋人を作ってみたい」乃絵美に告白をしたところ「ふざけろ」という答えが返ってきた。
なんでそんなことを言うのか、私が恋人の一人を作ったところで乃絵美には関係ないじゃないか、心の中に憤りを収めつつ冷静な口調で言ってみたけど、彼女は私に恋人なんか作れるわけないじゃないか、という極めて冷静な指摘をした。
まったくもってそのとおりである。
何の反発もできないので、私は代替手段を乃絵美に提供してもらうことにした。
現実世界では弟が好きすぎて男性の恋人なんか作れるはずはないと、乃絵美に胸を張りながら指摘をされた私も、ゲームの世界では主人公を動かして、かっこいい男性たちと恋に落ちることができるかもしれない。
大真面目な顔をして彼女は言ったけれども、当初の私はあまりに意味がわからなすぎて、でもその中の男性達ってゲームの世界の住人だから自分たちとは恋人になれないんじゃないの? そんな風に指摘をしてしまい、人間というのは人の気持ちを理解するために想像力というものが存在し、誰かの苦労を慮るためにも必要なものであるから――今から思い返してみても、乃絵美は私に乙女ゲームなる存在をプレイさせたいから適当なことを言い放ったのではないか。
ともあれ男性心理を理解するため、何より私は弟に好かれるという目的を果たすために、乙女ゲームをプレイするようになったのである。
そして私がその世界に転生することになろうとは――運命というのは誠に分からないものだ。
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