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その手を繋いだまま歩き、橋の中程で立ち止まった。この橋を渡って五十メートル程歩けば、すぐに小学校がある。
向かい合って立つ孝太郎を、真っ直ぐに見つめ返した。
東の山の端がオレンジ色に染まり、明るくなってくる。もうすぐ、夜が明ける。
「孝太郎、なんでかな?……辛い事ばかりだったはずなのに思い出すのは、優しい思い出ばかりだよ」
両手を握り締めて涙を堪えながら、自分の想いを、必死に紡いだ。
涙が堪えきれなくなりそうで目を閉じようとした時、目の前の孝太郎から長い腕が伸びてきて、ギュッと抱きしめられた。
「唯、おかえり」
私は、息を呑んだ。
「これからはずっと、この町で俺の隣にいて……」
耳元で囁かれた言葉に、とうとう涙が溢れた。
「ただいま、孝太郎。これからはずっと、孝太郎の隣にいるから」
私を抱きしめる腕の力が更に強くなり、私も孝太郎の背に腕を回した。
生まれたばかりの朝の陽が、私達を照らす。
新しい今日が、始まる──
END
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