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プロローグ
―――「なんやぁコウちゃん、うちが見えへんの?」
目の前の紅葉(もみじ)はそう言った。俺はただ口を開けたまま彼女を茫然と見つめる。
一瞬その大阪弁を、「私が見えないの?」という意味で捉えかけた。
が、長年共にいたことでその意味は「私が見えるの?」と訳されることを咄嗟に理解する。
そう。彼女は自分が見えるのかと問うてきたのだ。
それに対して口をぽっかり開けたままの俺に、「…もうっ」と紅葉は腹立たしく焦れたように言う。
さらに近づいて来ては、細い腰に手を当てて俺を見上げる体制になり大きくハッキリとした声で、
「せやから、うちが見えとんのかて聞いてんねや!どうなん?」
俺はその声に、やっとのことで頷いた。
でも、まるで上の空。
あまりの衝撃過ぎて、正気を保つのに必死だったからだ。
紅葉はやっと答えを得られたというような満足げな笑みを浮かべ、
「そうなん」
と頷き、手ぶらの彼女は雪の降り積もるガードレールの上に夏服の半そでセーラー姿でひょいっと座った。
でも紅葉には凍えるような様子も、雪が制服に染みるということに考慮している様子も全くない。
透き通るように白い肌は血の気がよく、真っ黒なセミロングにも艶があった。
彼女だけが映されると、まるで真夏のよう。俺のダッフルコートが、それの異様さをさらに立たせているようだ。
「そ、それで…」
俺が喉から押し出すように呟くと、彼女は首を傾げ、
「なに?」
俺は冷気を吸い込み、ゆっくり口を開く。
分かってはいる。分かってはいるけれど。
俺は改めて彼女に問うた。
「その……紅葉…だよな?…お前は」
すると足をブラブラさせていた彼女は、ガードレールからふわっと地面に降り立つ。
再び俺に歩んで来ては目の前に近づいて、
「せやでコウちゃん、当たりや」
にっこりと、俺の高校時代の恋人、紅葉は微笑んだ。
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