Vol.2

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 高校二年の時に母が乳がんで亡くなった。  九つ上の姉は既に独立し大手のゼネコンでバリバリ働いていたので、これからは苦手な父と二人で暮らしていかなければと覚悟を決めて頑張っていた矢先、父が家に女性を連れて来た。  真面目しか取り柄のないような、昔気質の頑固な父からは想像もできない出来事だった。  専業主婦だった母に私は生前ずっと甘えてきて、確かに料理も下手だったし、ワイシャツにアイロンをかけても皺を上手く伸ばしきれなかった。それでも、仕事をしている父のために自分なりに精一杯のことはしてきたつもりだった。  それなのに、お前ではダメなんだと言われた気がした。  母の一周忌法要が済んだばかりなのに一体何を考えているんだろうと、父のことを心から不潔だと思った。  いきなりやって来た女性はいかにも水商売をしていそうな風貌で、父とは釣り合わないほど若く日本の人ではなかった。海外の人が悪いわけではないし、偏見や差別もまったくない。  それでも、その女性は私の前でも平気で父にベタベタするし、お金目当てに寂しい中年男をたぶらかしているのは明らかだった。  すぐさま姉に相談した。もう父とは一緒にいたくないから高校を卒業したら家を出ると言うと、姉はうちにおいでよと言ってくれた。  もともと特に頭がいいわけでも、勉強が好きなわけでもなかったので、大学に進学することは考えていなかった。  高卒で就職するのは厳しいわよと姉は言ったけれど、これ以上、父やあの女性と関わりたくなかったし、大学の費用まで出してもらいたくはなかった。
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