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大型の台風が上陸したせいで、バケツどころかドラム缶をひっくり返したような猛烈な雨が降り、強い風が雨戸を叩いていた真っ暗な夜のことを、私は生涯忘れることはないはずだ。
今まで生きてきた中で一番緊張して、一番幸せな夜だった。
もちろん、彼にとってそうでないことは解っている。
すぐにでも忘れてしまいたい、人生の汚点かもしれない。
それでもよかった。
それでも私は……。
「ごめん……栞里ちゃん」
陽介さんは私に何度も頭を下げた。
「そんなに謝らないで下さい。私が望んだことだから……」
真っ赤に染まったシーツを目の当たりにし、私も陽介さんもしばらく言葉が出なかった――。
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