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「……っ!」
身の危険を感じた陸は完全に目覚め、悪寒で震える身体を必死に動かす。
相手は男だった。
重さといい、押し離そうと触れた厚い胸板、荒い息遣い。
「え」
陸の自身を確かめて、なぜか戸惑う低い声が更に性別をはっきりさせる。
退かない他人の体。
激しく動き回る熱い掌。
口腔に居座り陸の舌をも絡め取ろうと乱れる、知らない男のそれ。
たとえ一方的な行為の中に快感が覗いたとしても、見ず知らずの、しかも男によるものに素直に流されたくなかった。
「ちょっ……何!酒臭っ、アンタ誰!!」
唇が開放された直後、陸は噛みつくような勢いで叫んだ。
けれど男は驚く事もなく、その頭を陸の胸へともたげたのだ。
「男でも女でもどうだっていい……愛してんだよ」
話の噛み合わなさ、酒の匂い、それだけでもう男が泥酔してるのは分かった。
だが一体、誰の事を言っているのだろうか。
陸自身、よく"整った顔立ちをしている"と男女問わず言われる事は多いが、"愛してる"とまで思われた事はない。
女ならともかく、男には。
何より、一番気になるのがこの部屋の鍵を持っていると言う事。
「俺は男だ!誰と勘違いして……っ」
「宇美……っ」
男は震える声で、確かにそう呟いた。
その名前は、この部屋の住人で陸の姉と同じものだ。
「姉、ちゃん……?」
思わず口にすれば、上方から落ちてきた水滴。
それの温度に、男が顔を上げて泣いているのだと陸は悟った。
「待って……姉ちゃんは女だから!明日帰っ__ 」
全てがリンクして、納得できた陸は勘違いしていることを伝えようとした。
このままだと何か間違いが起こると、本能が警鐘を鳴らしていたから。
なのに。
言葉はキスで遮られ、代わりに濃厚な水音が響き出す。
「ぁ……っや、め……っんぅ!」
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