6人が本棚に入れています
本棚に追加
うちの家系は少し……いや、大分変わっている。
女の子は必ず、ある能力を持って生まれてくるのだ。そしてもれなく、その能力を使った仕事をしていく。
「でも、驚きました。幽霊が見える人が本当にいるなんて」
私の前を歩く男性は、さっきから感心しきりだった。私は何度も同じような事を言われているからもう慣れているけれど。やはり、普通の生活をしてきた人の尺度では、私の家系は計ることはできないのだろう。
「うちじゃ珍しくないんだけどね、霊能力なんて。むしろ、私なんて弱い方だよ」
霊能力。これがその力の正体。我が家の女子は必ず、霊能力を持って生まれてくる。
ただ、一言で霊能力と言っても人によって得意分野は違う。
降霊術を最も得意とするおばあちゃんはその力を生かしてイタコを生業にしているし、お祓いが上手いお母さんは除霊屋の仕事をしている。二人とも、時の権力者がお得意様になっているとかいないとか……その真偽については私にも教えてくれない。たとえ霊能力者であっても、仕事で知りえた秘密は誰にも漏らしてはいけない。
私が得意としているのは、生者と幽霊をつなげること。たったそれだけ。おばあちゃんやお母さんみたいに、降ろすことも祓うことも出来ない。おばあちゃんいわく、歴代で最も力を持たずに産まれてきたのが私らしい。
つなげるというのは、私が持つ霊能力を一時的に幽霊が見えない人間に分け与え、幽霊を見せる手伝いをすること。
生者と死者、それぞれの手をつないで三人がひとつづきになり、その力を分けるから、私は『霊と人をつなげる能力』と言っている。一見地味な能力だから不安だったけれど、いざこの仕事を始めると意外に評判が良かったSNSの仕事募集用アカウントには、結構頻繁に依頼がある。……もちろん、いたずら目的でメッセージを送ってくる人もいるから、時々騙されてしまうこともあるけれど。
「俺もようやっと会えるんですね。千尋に」
「でも、さっきも言った通り、必ずしも見えるようになるわけじゃないからね。私とあなた、そしてその『千尋さん』の相性が悪いと、どれだけ私が頑張っても、見えるようにはならないんだから」
霊能力は、絶対じゃない。
おばあちゃんだって霊との相性が悪ければ降霊させることはできないし、お母さんだって霊の力が強かったら除霊することもできない。私も同じだ。霊と生者、その間をとりもつ私、その三人の相性が最悪だったらつなげる事すら叶わないのだ。これは免責事項として、生きている人に書いてもらう契約書に明記しているけれど、必ず口頭で伝えるようにしている。もちろん、生者に見られる幽霊側にもかかすことなく。幽霊が依頼主に会うことを楽しみにしているケースだって多いのだ。
「千尋は、幼馴染だったんです」
彼は、しんみりと口を開いた。私たちは今、その『千尋さん』との待ち合わせ場所に向かっている。この仕事も、もう最終段階ってこと。
始めは、依頼者とメッセージのやり取りをして前金と『出会いたい幽霊』の情報を教えてもらう。最も大変なのはここからだ。その幽霊を探さなければいけない。その人のお墓を訪ねて来てもらうように懇願するパターンや、地縛霊となっている場合はその霊がいる場所に生者を連れていくことも。おばあちゃんに依頼をして降霊してもらい、幽霊と交渉するパターンもある。
そして、それぞれをつなげるのだ。
時には生者とその待ち合わせ場所に向かったり、たまに、その場所に幽霊を連れていくこともある。
「恋人同士だったんですよね? あなたと千尋さんは」
最初のコメントを投稿しよう!