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「はい。僕と千尋は保育園にいた時からの友達で……僕にとって、千尋は初恋でした。千尋はおっちょこちょいな僕と違って勉強ができて、でも同じ高校に行きたくて必死に勉強して、合格発表の日に告白したんです。千尋に、付き合ってほしいって」
「それで、OKを貰えたと」
「はい、嬉しかったなぁ!」
まるで昨日の事のように頬を緩ませる彼の姿を見ていると、何としても二人をつなげなければと力が入る。私はシャキッと背筋を伸ばして、彼の話に耳を傾けた。こうやって話を聞くことも依頼の一つだ。つなげる二人の事をよりよく知っておくと、つながる確率はうんと高くなる。
「待ち合わせしている橋は、僕たちにとってかけがえのない場所です」
彼はまっすぐその橋に向かっていた。まるで私を導くような背中だった。
「高校生になって付き合い始めてから、僕たちは毎日一緒に帰るようになりました。ただの友達から恋人同士になったばかりの頃は少しぎこちなかったけれど、意を決して千尋の手を握ったら、千尋は笑いかえしてくれて……」
彼は、自分の手を見つめた。その時の手の感触が、まだ彼の中に残っているのかもしれない。
「毎日、あの橋を渡って帰りました。渡り終えると、僕は右の道に、千尋は左の道に分かれる。それが寂しくて、橋の上に差し掛かるとわざとゆっくり歩いたりして。初めてキスしたのも、あの橋だったんです」
彼は、そこで言葉を区切った。横顔を覗き込むと、痛みをこらえるようにぎゅっと固く目をつぶっていた。
「キスをした次の日でした。千尋には早く帰らなきゃいけない用事があったんですよ。僕は日直当番に当たってしまっていて……仕方なく、別々に帰ったんです。また明日会おうねって約束したのに。その約束は、果たされることはなかった」
依頼主の話を聞くところによると、この橋の手前でその事故は起きたらしい。高校生が一人、前方不注意の車に撥ねられ、そのまま他界したと。
「千尋はどんな思いをしたのだろうと、想像するだけで胸が苦しくなるんです」
「聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
「え? ど、どうぞ……」
私が小さく手をあげると、彼は戸惑いながら頷いていた。これから聞くのは、とても恥ずかしいけれど……つながる確率を上げるためには必要な事だ。
「千尋さんの、どんなところが好きだったんですか?」
「えぇっ! きゅ、急になんなんですか!」
「教えてください! この通り!」
彼が慌てているのを尻目に、私は深く頭を下げていた。こんな道端で体が半分に畳まれるくらい深いお辞儀をしている私を見て、とおりすがりの車の運転手はきっとびっくりしているだろう。
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