6人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしてあなたにそんな事を……! は、恥ずかしいんですけど!」
「私だって、好きで聞いてるんじゃないんですよ! 仕事の一環です! あなたと千尋さんの事を深く知ることで、二人をつなげる力が強くなるんです! それに、千尋さんからはもう聞いてますよ! ……あなたのどこが好きだったのか」
「え、ち、千尋が?」
「はい」
私は千尋さんが話していたことを思い出す。目元をわずかに潤ませて、まるで失った日々を思い出すように遠くを見つめていた。
「あなたの、優柔不断でいつも自信がなさそうにおどおどしていて、人がよすぎていつも面倒事を引き受けて……」
「それ、僕の悪口じゃないですか……」
彼は肩を落としていたが、私の次の言葉を聞いているうちに、目の色は次第に明るくなっていった。
「でも、その優しすぎるところが一番好きだったって。誰かの痛みを、まるで自分自身が受けたように、誰にでも親身になるところ。そして、友達が多くていつも誰かの中心になっているとこが羨ましかったって」
「……千尋は、僕の事をそんな風に思っていたんですね。ちっともわからなかった」
「ちゃんと口に出しておけばよかったって、後悔してましたよ、彼女」
彼は口を噤んだ。唇を噛み、こみ上げてくる感情をそこでせき止めているかのようだった。足取りは少しだけゆっくりになる。私も歩くペースを変えて彼についていくと、彼はポツリと口を開いた。
「僕は、千尋の、活発で明るくて……うじうじしている僕の背中を叩いて励ましてくれる、その優しさに惹かれていました。まるで太陽みたいに温かくて、傍にいるだけで心もポカポカになる」
彼は自分の胸に手を置いて、深く呼吸をする。
「もうすぐ、彼女に会えますよ」
私が彼の隣に立ってそう微笑みかけると、彼は嬉しそうに笑った。待ち合わせ場所にしている思い出の橋に、私たちはもう差し掛かっていた。緩やかな傾斜を昇っていくと、ひらりと揺れるストライプ柄のスカートが見える。顔をあげると、不安げな顔をした女性がそこに立っていた。
「……千尋さん、で間違いないですか?」
私が訪ねると、彼女は何度も頷いた。私の隣に立つ彼は、大きく目を見開いている。
「焦らしてもなんだし、もう始めちゃいましょうか。手、出してください」
千尋さんはおずおずと手を出した。対して、彼は固まってしまったように動かない。私は彼の手を強引に取り、強く握った。私の右手には、彼女の左手が。私の左手には、彼の右手が。私は目をつぶり、深呼吸を繰り返す。生者と死者、それぞれのエネルギーが混じり、私の中で溶けていくイメージを思い描く。その両者が混じりきったその瞬間、霊能力がジェットコースターのように右手を伝っていくことが分かった。
最初のコメントを投稿しよう!