6人が本棚に入れています
本棚に追加
「どういたしまして。上手くいって良かったわ」
千尋さんは頬を流れる涙をぬぐう。
「……結婚する前に、どうしても隆弘に会いたかったんです。私だけが幸せになってもいいのかなってずっと思っていて。あの日、私が一緒に帰っていたらもしかしたら……」
私の横に立つ彼は、首を横に振った。まるで、運命なんて最初から決まっていたのを知っているかのように。
私の背後から、車のクラクションが聞こえてきた。千尋さんはその車に向かって軽く手を振る。
「それじゃ、報酬はネットバンクの口座にお願いね」
「はい。今日は本当にありがとうございました。依頼して、本当に良かった」
彼女は車に乗り込んでいく。運転席には、精悍な顔立ちの男性が乗っていた。彼はもう一度クラクションを軽く鳴らして、私に向かって小さくお辞儀をしてから車を発進させた。
小さくなっていく車を見ながら、彼は大きく息を吐いた。
「……僕も、もう戻ります」
「ああ、ごめんね。急に呼び出して」
「いえ、僕も千尋に会えてよかった。あなたのおかげです」
彼は私の手をとり、ぎゅっと握った。また彼の体は金色の光に包まれ、光の粒子をなりゆっくりと天に昇っていく。彼を見送った私は、来た道を戻る様に歩き出していた。
向かう先は、新しい依頼主の元。
――私の仕事は、人の心をつなげること。
最初のコメントを投稿しよう!