8「永遠の別れ」

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8「永遠の別れ」

「お父さんが亡くなったの。心筋梗塞で」  母から国際電話で訃報を聞いた時、ネオ・プリンセス号はリオデジャネイロを出たばかり。大西洋を3日間縦断してイギリスを目指す。イギリスに到着する頃、船旅は丁度半分の100日目を迎える。  私は船旅を切り上げて日本に帰ると提案した。 「いつまでに戻れる?」 「えっと、3日後にイギリスに着いて、イギリスから飛行機で福岡に着くのに1日掛かって、大体5日ぐらいで防府に戻れるよ」 母が電話越しに大きな溜息を吐く。 「夏帆ちゃん、無理しなくていいよ」 「お母さん?」 母は早口でまくし立てる。 「だって夏帆ちゃん、お父さんのこと嫌いだったでしょ? 分かってたのよ、私。二人が仲悪いって」 「そんな!」 「お葬式とか全部私で済ませておくから、あなたは世界一周をせいぜい楽しみなさい。じゃあね」 「ちょっと!」 母は無情に電話を切った。小声が聴こえた。 「バカ娘」  初めて母から嫌われていたことを知った。  私は大翔と出逢った船の屋上から航跡を見つめる。  航跡は白い。天気が良いから、大西洋の蒼海も、白い雲が舞う青空も、私の気持ちなど知る由もなく、のん気に光り輝いている。  大翔がやって来る。彼が私の右肩にそっと手を置くと、私は彼に抱き付いて彼の胸で泣いた。大翔は私の背中を抱き締めて、頭を優しくなでてくれた。  閉じた瞼と大翔の胸の中で創り出す闇を(むさぼ)るしかない。  SUVの1台くらい買ってあげれば良かった。  確かに、初めて航跡を見た時に感じた『永遠』は本物だった。  母は地球の裏側、父は天国に居る。  遠くまで来てしまったと悔いた。
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