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「……今日はもう行かなくちゃいけないけれど、まだ帰るわけじゃないから」
「そうなの?」
レムの声が明るく弾む。
「だから、また明日ここで会えないかな…って思って」
「うん、待ってる。わたし、明日も絶対にここへ来るから!」
レムの返事に、安心したように力を抜いた表情で頷いたレムは、また手を振った。
「じゃあ、またね」
「ええ、また明日!」
レムは、大きく手を振り返した。
明日は、今日よりも早く来ようと決めたレムは、早めに帰ることにした。
そして、次の日。
──約束の場所に、彼はやって来なかった。
レムがその場所に着いたとき、空色の風船が地面に浮いていた。
近付いて、そっと風船に触れてみる。
彼の瞳と同じ色の風船。
───パチンッ!
優しい音で割れると、中から懐中時計が出てきた。
「わわっ!」
落ちないように、壊れないように慌てて手を差し伸べる。
『それあげる。レム、またね』
割れた風船の中から出てきたのは、時計だけでは無かった。
マリンの声がした。
風船の中に、時計と一緒に声を閉じ込めて行ったのだ。
──別れの言葉。
お礼もレムのさよならも聞かずに、彼は去ってしまったのだ。
レムは、流れる涙を抑えずに宙に溶けた声を追いかけるように視線を空へやる。
「ありがとう……、マリン………っ」
直接は、言えなかった。
それでも、いつまでもありがとうと言い続ける。
彼は『またね』と言った。
それは、未来に二人が会うという約束。
だから……。
今は、静かに祈ろう。
──いつかまた、会えますように。
そんな気持ちを、込めながら。
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