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水の都
「なあ、これどこだと思う?」
「ん?」
透哉が真矢に見せたスマートフォンの画面には、古い石造りの建物とその間を抜ける水路、美しい街並みが映し出されていた。
「イタリア、ヴェネツィア」
「ぴんぽーん、大正解」
「ヴェネツィアがどうしたんだ?」
透哉の真意を測りかねて、真矢が尋ねる。
「いや、今日駅前の旅行代理店の前を通った時にな、ベネチアのポスターを見てさ。綺麗な所だなーって思ったんだよ」
「確かにとても美しい都市だと思う。行ってみたいのか」
「みたいけどなー、バイク買ったばっかりで金がな」
透哉が右手の親指と人差し指で輪っかを作り、それを見せる。
「行くなら学生のうちがいいと思うぞ。将来どんな職に就くか分からないが、社会人になったら中々纏まった休みは取れないだろうし」
「げ、マジか」
「職によりけりだがな」
「夢も希望もねぇな、社会人」
「それも仕事によりけりだ」
透哉が再びスマートフォンの画面に視線を戻す。
「バイクで行けるところならなー」
「海外だからな、難しいな」
「とりあずまたバイト代貯まったら考えるか」
「それがいい」
「あ、そういえば真矢ってイタリア語喋れたよな」
「少しだけな」
「じゃあさ、一緒に行こうぜベネチア。イタリア語喋れると心強いわー」
「お、透哉の奢りか。気前がいいな」
「なんでだよ」
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