序章

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序章

 いつもメモに書いているボールペンではなく、仕事に使っている筆で書こうと決めた。  そうすれば普段以上に集中してあの人について書ける気がするから。  本にするとき出版社がかなり苦労するだろうがそんなことは関係ない。  これは私に対するあの人に対しての敬意と感謝の意味を持つのだから。  まああの人とは言っているが、書くのは私の自伝である。しかし、思い出してみても私が転生してから今までの記憶はあの人と一緒にいる記憶が一番強い記憶なのである。  だから私の自伝を書くことはあの人のことを書くと同義であると私は思った。  しかし何故あの人は自分の事を一切書こうとしないのだろうか?本当に自分の事を世に残そうとしない人間だ。それほどの事をしてきた人間なのに。  時々キレそうになるがそんな事は今どうでもいいことだ。もうあの人はいないのだから。  それよりもいつも仕事用に使っている紙(もちろん原稿用ではない)を敷いて筆に墨汁を染み込ませているといつもとは違う不安がよぎってしまう。  (これ使って平気かね?まあこれ使ってるの私だけだし何か言われたら【特級】の力でどうにかするか…)  不安はさておき、書き出しを悩んでいた私だが唯一あの人が筆で殴り書きしていた私が転生した前後の事のメモがあるのに気が付き、これに私が修正をすることで書き出しとすることにした。  「ふぅ…、じゃあ始めるとしましょうか!書き出しは…」  “私は【アリス】。そしてこの本は私が師匠と慕う【龍五郎】との短いようで長い、私の第二の人生、そして観察者【オブザーバー】としての物語である”
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