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「凪のは? ないの?」
そう言われて、僕は「ない」と即答した。「絶対あるでしょ」と返され、僕はため息をつく。由紀に逆らうと面倒なことになるので、しょうがないと割り切り、カバンからスケッチブックを取り出した。そして由紀に渡した。
由紀はぺらぺらとスケッチブックをめくる。うまく描けていない時期の絵を見せるのは、本当に恥ずかしい。僕は前に絵が描けなくなったときに、それをよく知った。
由紀がとある一ページを凝視しているので、何をそんなに見ているのだろうと疑問に思う。そしてすぐにページを閉じて、机にカバンを置き、持っていた黒いケースから銀色の楽器を取り出した。
突然の行動に僕は訝しむ。由紀は楽器を組み立てていく。
「それって、フルート?」
僕が聞くと、由紀は黙ってうなずく。そして由紀はフルートに唇をつけて、音を出し始める。ここで練習する気だろうか。
少しの間、音を出した後、由紀はそっとフルートから唇を離した。
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