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「私のこと、描いてくれる?」
僕は固まった。由紀のフルートを吹いていた唇に目を離せなくなった。
「どうして、そんなこと、言うの」
「コンクールの曲、練習しながらでもいい? なるべく動かなければいいよね」
そう言って、窓際の席に腰掛ける。僕は意味も解らずに、その目の前の席に座った。白紙のページを開いて、筆箱から鉛筆を取り出す。
音を出し始める由紀に対して、僕は鉛筆を動かせずにいた。どうすれば、この手が動くのだろう。フルートは小鳥のさえずりのような澄んだ音とハスキーボイスのような深みのある音が混じりあいながら鳴った。
僕は彼女のことを見つめる。少し切れ長な目。中学生にしては大人びた風貌。長い前髪がまつげをかすっている。のびのびと、フルートの音色を楽しむように、吹き続けている。
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