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僕は戸惑いながらも、急いでスケッチブックを取り出した。筆箱から鉛筆をつかみ取り、先輩を観察する。先輩はどこか遠くを見つめていた。
先輩の長いまつげ、大きな瞳、ぷっくりとした唇、顔の輪郭、整えられた前髪、きれいな形の耳と鼻――。一つ一つを凝視して、正確に捉えようと努力する。鉛筆を走らせる音だけが、朝の美術室に響く。
「私、転校してきたでしょ」
先輩が、突如話しだす。それでもポーズは変えずにいてくれる。僕は鉛筆を走らせる手を止めて、顔を上げた。
「好きな人がいたんだけど、だいぶ遠くになっちゃったな」
そんな言葉を聞いて、僕は頭の中が真っ白になった。先輩の、好きな人。
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