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僕は再び鉛筆を動かし始めた。その瞬間、先ほどまでただのパーツだった顔の一部分が、色鮮やかに輝きだした。
恋している女の人。誰かを想って遠くを眺めている。長いまつげと大きな瞳は、恋の戸惑いを。唇と輪郭は、まだ中学生である幼さと恋をしている女性の大人びた雰囲気を。整えられた前髪はきっとあの人のためで、あの人の声を聞くための耳、あの人の纏う香りを刺激する鼻。
絵にそれらを込めようと、なんとか鉛筆を走らせる。どうすれば届くんだ。どうすればいいんだ。絵を見ただけで、人となりを伝えることがいかに難しいことなんて知っている。それでも、乗り越えてみせたい。この絵を見ただけで、一途な恋が伝わるような――。
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