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冬の手が凍るような冷たい水で、先輩と一緒に流し台でパレットを洗っているときに、不意に話しかけられた。
「え、どうしてですか?」
僕がそう答えると、先輩は洗う手を止めて、水を止めた。
「なんか、絵がつらそうだったから」
目を見開いた。僕は先輩に弱い部分を見せたくなくて、
「そんなことないですよ」
とつい強い口調になってしまった。本当は、描きたいものがうまく描けなくて悩んでいたのだった。
「そっか」
先輩は、蛇口をひねり、再びパレットを洗う。僕は形容しがたい色に混ざった水を流して、洗い終わった筆洗バケツとパレットを流し台の上に置く。
僕は蛇口をひねり、水を止めた。
「描きたいものが」
そう口走ってしまって、僕は自分に驚く。こんなことで、先輩の手を煩わせたくはないのに。「なんでもないです」と慌てて言ったときにはもう遅かった。先輩は僕の目を見て、はっきりと言った。
「何があったのか、教えてくれる?」
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