届けと祈ってるの

4/20
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 冬の手が凍るような冷たい水で、先輩と一緒に流し台でパレットを洗っているときに、不意に話しかけられた。 「え、どうしてですか?」  僕がそう答えると、先輩は洗う手を止めて、水を止めた。 「なんか、絵がつらそうだったから」  目を見開いた。僕は先輩に弱い部分を見せたくなくて、 「そんなことないですよ」  とつい強い口調になってしまった。本当は、描きたいものがうまく描けなくて悩んでいたのだった。 「そっか」  先輩は、蛇口をひねり、再びパレットを洗う。僕は形容しがたい色に混ざった水を流して、洗い終わった筆洗バケツとパレットを流し台の上に置く。  僕は蛇口をひねり、水を止めた。 「描きたいものが」  そう口走ってしまって、僕は自分に驚く。こんなことで、先輩の手を煩わせたくはないのに。「なんでもないです」と慌てて言ったときにはもう遅かった。先輩は僕の目を見て、はっきりと言った。 「何があったのか、教えてくれる?」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!