ファンの代償

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ひかるのいまの活動状況を知ってから、今日は初めての戦に出陣する。夏の陣。 あのコスプレで出演する舞台。 よくわからないから、一般の発売日にサイトを開いたら、繋がりにくかったものの、問題なく購入できた。さすがに最前列みたいな特別な席は取り扱いしてなかったけど。ゲーム?アニメ?よくわからないものの話だから後ろの席で、動いてるひかるが見られれば十分だったし、特に不満はない。とはいえ、舞台のチケットって高いんだなぁ…バイトのシフト増やそう。 今日の戦のおともは、もちろん兄のゆうくん。 わたしと兄が見に行くということを、兄がひかると共通の友人に連絡したら、感想とか教えてほしいから終わったら合流するのに、わたしにもつきあってほしいんだって。先日言ってた紹介してほしい件のこともあるから、と追加で言われると断れない。 「…ねぇ、ゆうくん」 「なに?」 「わたし、10年前の面影ある? 子どもっぽいかな…」 「ん?」 「少しでも大人っぽくなりたいなぁ…そうすれば、ゆうくんの恋人にも見えるのに」 「かわいい。大丈夫、自信持っていいよ」 兄の言葉は、今日のわたしに自信をつけてくれた。 準備万端で家を出る。いざ、参らん……。 初めて、舞台というものをみるから、こういうところに来るのも初めての経験だった。テーマパークの傍らに、こんなホールがあったなんて知らなかったし。 大人っぽくなりたかったから、ふだんの服装より数倍シンプルで清楚に見えるのを選んだけど、いろんなタイプの女の子がいるし、ギャル系っぽい子もいて、なんだか安心した。 取り越し苦労のわたしより、浮いていたのは兄の方だ。兄はまったくといっていいほど気にしていなかったけれど、顔面レベルからして、関係者かなにかだと思われているみたいだった。ひそひそとそんなやりとりをしていたのが聞こえてくる。開演前からすでに悪目立ちしてしまったんだけど、このまま帰った方がいいのかな…? まさかここまで女性ばかりの場所だとは。よくは見なかったけど、女性の出演者はひとりだけ? そりゃあ、ひかるも含めた男性を目的に異性が見に来るわけだ。 開演時間が近くなってきて、中へ入る。ほんとうに後ろの席だ。これなら、まかりまちがっても、大丈夫。変な期待は捨てよう。これから始まるものだけに、集中しよう。 観劇するにあたってのアナウンスから、数分経って、照明が暗転した。そうして、ステージ上での物語が始まった。 * ど、どうしよう…… 話がさっぱりわからない! 登場人物も、10人以上いるから名前がこんがらがるし、時代背景も、設定も、飲み込めないままどんどん進んでいってしまう。 ひかるのことも、役の髪色を把握していたから、なんとなくわかる程度。よくよく考えたら、わたしって、ひかるの声を覚えてなかった。記憶があったとしても、声変わりをする前…変わっている途中の、そんな声。こんな、低めの大人な男性の声のひとなんて、知らない。
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