ファンの代償

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「…そろそろ、終わりのお時間がやってきてしまいました。まだまだ続けたい、続けてほしいというお客さんの気持ちも理解できるんですけど、オトナの都合があってですね……それじゃあ、最後の挨拶を、ひとりずつお願いします。自己紹介とは反対に、朔田さんから」 「…はい、えっとですね、公演も中日を過ぎて、折り返しまできてしまってですね、もう、本当にあっという間で、毎日が楽しくて。1公演1公演が終わってしまうのがとても寂しいのですが、最後まで○○くんと二人三脚でがんばっていきたいと思っていますので、応援していただけたらうれしいです。本日は、ありがとうございました」 * 「…はぁ、やっと終わった」 痛みを超越して、無感覚に陥ったわたしの臀部。それでも、舞台の内容の余韻に浸るなんてあるはずがなかった。 やっぱり、ひかるって大人だ。兄が幼稚だとはいまは思わないけれど、22歳であの落ち着きはなかなかない、と思う。兄の、ほかの友人たちと比べて考えたら、そうなるなぁ。でもそれは、わたしが知らないだけで、はっちゃけてるひかるも存在しているんだろうな。外ヅラがいい…みたいな? 「…じゃあ、さっそくだけど、行くか」 「ど、どこに?」 「さっき言ったじゃん、おれの友達に会うのに付き合ってほしいって」 そ、そうだった…… 「すぐ、終わる?」 「そこまではわかんないなぁ。挨拶するだけでもいいよ。そしたら、先に帰ってて」 「わかった……。ごめんね、ゆうくん」 「気にするな」 それから程なくして、兄の友人たちと合流した。 中学時代からのお馴染み、しょうくん、たろうくん(本名はゆうたろうだけど、通称たろう)、もりりん。あとふたりは…えっ、ちょっと待って。思い出したくない顔がいるんだけど。 「…ほら、言ってた弟だよ」 「…どうもこんにちは。そして、さようなら」 苦汁をなめさせられた、あいつを、わたしの友達に紹介しないといけないの? しょうくんの弟、すばる。兄としょうくんのように、中学まで一緒だった。完全なる幼なじみ。 やんちゃだけど、裏表のないしょうくんとは反対で、こいつは…そう、二面性がある。なぜかわたしにだけ態度が違う。何度暴言を吐かれたことか。相談しても、どうせ信じてもらえないから、黙ってやりすごして…そんなことをしていたら、ひかるのことが記憶から薄れていってて…まぁ、いまはわかってるし、結果オーライかな。 弟を紹介するってなったときに、ひかるとの共通の友人の弟を、っていう時点で察するべきだった。同じ大学に通ってないのに、共通の友人なんてそう簡単にできるわけない。わたしもいろいろあって、動転していたんだな、きっと。 こんなことなら、まわりくどいことしないで、わたしから直接たろうくんの弟のたいがくんに連絡しておけばよかったかなぁ。たいがくんなら連絡先知ってたし…いや、断られただろうな。今年受験生だったはず。それに、たいがくんも性格に難があるし、それなりの親交を深めるまでに挫折しそう。 だいたい、条件が5歳くらい年の離れた弟だなんて、なかなかいるわけがないんだよ。全員が全員、恋人がいないとも言い切れないし。ってなったら、すばるしかいなかったってこと? まぁ、仮に友達が付き合って別れたとしても、すばるだったら気まずいとかならないし、よかったのかな? いや、よくないよくない…
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