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「なんだよ。おまえの友達に付き合ってやろうと思ったのに、その態度ってひどくない?」
「だって、すばるが来るとは聞いてなかったから…はぁ…ごめんなさい。初めましてですね…すばるのお友達?」
しょうくん、たろうくん、もりりん、すばるのほかに、もうひとりいたのを忘れてた。感情が先走ると周りのことを注視できなくなってる。兄の性格がうつったかな…それでも宿題は忘れないようにしなきゃ。
「うす」
「酒井っていうんだ。このこと話したら、会ってみたいってなって」
あぁ、なるほど。もはやゆうくんの友達って関係なくなってる気がするけど、紹介してほしいっていうのには当てはまるし、いいよね。約束は果たせる。
「隣のひと…彼氏さんですか?」
「え? あ、ゆうくん? 彼氏だよ」
初対面なら勘違いするよなぁ。昔は似てたけど、大きくなったら、全然似てなくなっちゃったし。きょうだいのくせに、距離が近いって言われるから余計勘違いされること多いもん。
「そう言ってもらえるのはうれしいけど、ひとを騙すのはよくないよ」
「え…てことは…」
「兄と、妹です」
そう言うと、絶句してる。それなりに時間を共有しているたろうくんとか、もりりんとかですら、わたしたちの仲と血のつながりを疑ってた時期あったもんね。
このあと予定があるから、ということで、わたしは一足先にこの集団から離脱する。帰る間際に、もりりんがソフトクリームを奢ってくれた。疲れたところだったし、甘いものはからだにしみる。
*
わたしはひとりになって、電車に揺られながら、兄と約束した、ひかるのファンになるにあたって、守らなければならないことを思い出していた。
"つらくなったら、ファンをやめる。"
もしかしたら、わたしはファンというものの存在を軽視していたのかもしれない。そのひとに抱くものに、恋愛感情がまったくないとは言い切れないけれど、どこまでいっても一方通行の思い。届いているようで、まったく届いていない。それでも、嫉妬するなんてご法度。すきになるのは自由なはずなのに、いつのまにかがんじがらめになってる。今日ファンというものを初めて経験したけれど、あそこにいたおねえさんたちを見て、そういう覚悟をもっているのを感じた。そして、それに圧倒されたのと同時に、自分にはできないと悟った。
ファンになるという代償は、ものすごく大きかったんだ。
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