別のアプローチ

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別のアプローチ

最寄駅に着いて、家までの道のりをとぼとぼ歩いていると、そこのお嬢さん、という声が聞こえてきた。 「えっと……わたしのこと?」 足を止めて、声の主を探すと、路地にちょこんと座る…いかにも怪しい占い師の格好をしたひとが。 「そう、お嬢さんだよ。ちょっとこっち、おいで」 ふつうに怖いと思ったくせに、なぜか素直に言うことをきいてしまったんだ。 「な、なんですか?」 「無償で、いいものあげる。きっと、お嬢さんのこれからの人生に役に立つと思うよ」 そう言って、占い師はわたしに小さな瓶を渡してきた。 「これは…いったい」 「使うときがくればわかる。悪いものじゃないから、処分なんてもったいないこと、しちゃいけないよ」 「は、はぁ…」 受け取った小瓶を握りしめて、その場を去る。 家に帰ってから、やっぱり処分しようかと思ったけれど、人生の役に立つって言われたら…もったいないという思いもしてきてしまう。そのまま化粧ポーチの中に忍ばせた。こんな調子だと、口車にのせられて、変な壺とか買わされたりしちゃうかな…今度からは気をつけよう。 * 翌日、友人に紹介する件を伝えると、一生分の感謝をされた。謝礼はあとでたっぷりもらうとして、もうひとつ、わたしにはほかにやらなければならないことがある。 「…おはよう」 「…あ、天野さん! お、おはよう」 オタクの子たちにあいさつすると、めちゃくちゃ驚かれた。突然すぎたかな。でも、こういうことは早めに行動しなきゃだし。 「今日のお昼、一緒に食べない? ちょっと、話したいことがあって…」 「いいけど…」 「やった! じゃあ、昼休み、教室でね」 約束を取り決め、わたしは本日も授業にいそしんだ。宿題がある授業は、ちゃんとやってるから大丈夫。そこまでひかるに翻弄されてない。だって、せんせーに怒られたくないし、ましてや居残りで補習なんてことになったら、そっちの方がイヤだもん。あの頃の兄は、わたしの反面教師。 でも……授業に集中はしていなかった。 たしか、オタクの子の片割れ…もえりちゃんとかいう名前だったかな…その子がひかるを推しってやつにするとかしないとかそんなこと呟いてたよね? 違ってたら申し訳ないけど、もし、そうだとしたら、それとなく、ひかるの活動状況みたいなものを定期的に聞き出せればなぁ…ファンの交流会とかあったりするのかな?わたしは参加したくないけど。もえりちゃんがひかるのファンじゃなかったときのごまかしの言葉も必要かな。 「…天野さん、ボーッとしてるみたいだけど、きちんと授業に集中してくださいね。この問題解けますか?」 「はい、もちろんです」 くそ…注意されてしまった。わたしを辱めて、従順にさせたいというせんせーの魂胆が見える。まぁ、そう一筋縄でいかないのがわたしだからねぇ。
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