もう会えないけど

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「暗い話をしたな。ごめん」 「いいのよ。糸葉の話も聞きたいわ」 「嗚呼、いいぜ。あと、俺も悪かったよ五十」 「俺もだよ」 「じゃあ聞こう」 「日野崎籐馬は小さい頃から警察にあこがれていた。正義の大切さを一番知っている子だった。でも、両親も兄弟姉妹も共に不良で、正義ってもんは家にはなかった。そして正義って何かなって思っていたときに好きな人ができたんだ。それが見延菓蓮なんだよ。いつの日か菓蓮を幸せにすることが自分にとっての正義だって思うようになって、それがどれだけ悪いことでもするようになった」 「じゃあ、雨久花をいじめたのもそうなの」 「それは分からない。でも言っていたよ、籐馬が。菓蓮は曲がった子だけれども、正義が過ぎちゃってるだけ。賢くてそうなっちゃっうだけだって」 「じゃあ、どうして五十を?」 「さあな、五十が生活をするとき心を遠くにまるで機械のように動いていたとするなら、ひどいことをしたら感情を少しでも持てるとか思ったんじゃない?」 「だからといって……」 「でも、自分がそれをできる方法も力も持っていない、できないと分かったから。いい人に巡り合える可能性にかけて、転校するほどのつらい苦痛を与えたんだとしたら理解できる」 「そういや、菓蓮を俺が好きになった理由は、どんなやり方をして己の身を犠牲にしても、大切な人を幸せにしたいって言ってたからだったな」 「でも可笑しいわ。その可能性だって少ないんだから。そんなの本人に聞かなきゃ分からないじゃない!」  そう鞠桃は言ったが、そんなのどうでもよかった。ただ一つだけ言えなかったことがあるから。 「あいつらはまだあの学校に?」 「分からない。ただこの土地をもらうときに言ってたよ。俺の友でいてくれてありがとう。俺は、感謝つたえずに友達をなくした。そいつらのためにも受け取ってくれ。死んだ親の遺品だから、俺のもんだって。でも、その表情がせっぱつまってたから。普段は考えるものを受けとったんだ」 「切羽詰ってた?」 「嗚呼、きっと、親が亡くなって相続問題とかいろんな奴にぶちあたってたんだろうな」 「生きてるのか? 菓蓮も元気なのかな? あいつらは……」 「今、考えたって無駄だよ。もうあいつらは俺たちには理解できない領域の、遠い世界にいるんだよ。俺たちには、救うことも殺すこともできない」 「じゃあ俺はあいつらに何を……」 「お前は、そのままでいいだろう。あいつは自分の好きなことをしていただけなんだし……」
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