奇妙な現象

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奇妙な現象

 馬鹿な話かも知れないが、みんなに聞いてほしい話がある。  どんな感想をもつかは自由だが、まずは何も言わずに聞いてくれ。  今年で28歳になる僕はごく普通のサラリーマンをしている。会社は中流、給料も平均、環境もまぁ並みだ。職場もありふれたビルの21階なんだが、そこで奇妙な現象が起きるんだ。  深夜、残業が山積みなのに自分一人のデスク。聞こえるのは空調の稼働音とキーボードを叩く音。そんな薄暗くて広い空間で仕事をしていると、ふとしたときに“ある匂い”がする。  オーブンから出したばかりの小麦とイースト特有の、パンの匂いである。  僕は夜食にパンなんて食べなければ、何度も言うとおり他に人はいない。  似た匂い、ではなくパンそのものが顔の周りを回っているんじゃと思うほど濃厚な香りがする。  さらに匂いが漂ってくるのは仕事場の残業中だけじゃない。  独り身の僕がインフルエンザで寝込んだ時に枕元で、高速道路で2時間の渋滞に巻き込まれた時に運転席で、RPGゲームで何度挑んでもボスが倒せない時に真横から、焼きたてのパンの匂いがするのだ。  しかも、感じるのは匂いだけではない。  背後や横から人の気配がするのだ。振り返っても横目で見ても誰もいない。けれど確実に人間がいるとしか思えない、体温すらも服越しに感じてしまう。  僕の頭がおかしいという人もいる。精神病院に行ったが異常はなかった。    じゃあこの現象は何なんだと説明を求める人もいる。  僕は答えを知っている。  そこに辿り着くには少し過去を遡らなければならない。 
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