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体育館の床をシューズが擦れるキュッという高い音が響く。声援やパスを求める声が飛び交う中、外ではそれに負けじと蝉がけたたましく鳴いていた。
「集合ー!」
練習の終わりを告げるブザーの後に、キャプテンである守は部員を集めると全体の評価と簡単なアドバイスを伝える。
休憩に入ってメンバーは給水や雑談など思い思いのことをし始める中、半数はある人物の元に集まって話をしていた。
"結月 秤"
3年の夏、最後の試合に向けて顧問が連れてきた外部コーチだ。昨年度卒業した天矢音が通っている大学の3年生でこの高校のOB。高校時代はもちろんバスケ部で、エースとして部を全国準優勝まで導いた実力者だ。そんな彼だが身長は低く、小柄で童顔。よく未成年に間違われると本人は気にしているようだが、周りからは可愛いと人気だ。指導中は厳しいが、普段は柔和で温厚。いつもニコニコとした姿は外見とあいまってコーチになって1ヶ月ほどだが、既にバスケ部のアイドル的存在になっている。守はその集団を離れたところで眺めていた。すると、中心で話していた結月と目が合う。
「っ!」
守は慌てて視線を逸らして近くに置いていたタオルで顔の汗を拭った。人の好き嫌いなあまりない守だが、なぜか結月に対しては初めて会った時から苦手意識があった。コーチの仕事も真剣にしているのが見ていて分かるし、人当たりの良さも評判なのだが。
(なんていうか…目が笑ってないんだよな……。)
笑いながら話している今も目だけは冷え切っているというか、全く楽しそうに見えない。守はその目が怖かった。その目に見つめられるのが──。
しばらくして守は近くの後輩と話し始めたが、結月の視線は守に向いたままだった。
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