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姉貴と美晴は親友になった。
小さい田舎町なので、同じ歳の遊び相手が少ないせいでもあるけれど。
お転婆で毎日町中をかけずり回っているような姉貴と、優しくていつもにこにこ笑っている美晴。二人はまるで正反対だったけれど、不思議と相性がよかった。俺は、そんな二人の後ろを、おまけみたいにくっついて歩いた。
市街地から引越してきた美晴に山の歩き方や木登りを教えたり、橋の下にある姉貴と俺の秘密基地に招待したりした。俺も、ときどき美晴の袖を引っぱって、食べられる木の実がある場所や、トンボがたくさんいる場所を教えてやったりした。
すると美晴は「かずくん、すごいねぇ」と言って笑う。その笑顔が見たくて、俺は二人の後ろを歩くとき、美晴に教えるものを探して、いつもきょろきょろしていた。
そのうち、俺も小学校に入って、放課後には三人でたくさん遊んだ。でも、俺が三年生になったとき、美晴は中学生になった。着慣れない制服に照れくさそうにしていたけれど、初めて見る美晴の姿は、俺にはずいぶん大人に見えた。
小学校と中学校じゃ全然時間が合わない。遅くなるまで帰ってこないし、うちに遊びに来ても、姉貴と二人で部屋にこもってしまう。
一度だけ、今までしていたように、ノックもせずに姉貴の部屋のドアを開けたことがある。ベッドの上で雑誌を広げていた二人は、驚いたように俺を見た。どことなく咎めるような視線にたじろいでいると、覆い被さってくるように甘いにおいがした。
あの夏の、人工的なバニラのにおいとは違う、どこか生々しいにおい。スカートから無造作に投げ出された美晴の足の白さに、思わず目が吸い寄せられる。
「勝手に入ってこない」
姉貴が俺を追い出す後ろで、美晴はくすくすと笑っていた。
俺が中学に上がる前に美晴は高校生になって、また制服が変わった。姉貴と美晴は親友のままだったけど、美晴は市内の高校へ行ったから、この町で美晴の姿を見ること自体少なくなった。
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