遠くへ

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 マイは間違いなく強かった。おれは、悪魔としての生を終えてもいいという覚悟で戦いに臨んだ。だからこそ使ったのだ『最終段階限界突破(ファイナルリミットオーバー)』を。それ対しマイも『究極形態(アルティメットフォーム)』で答えた。  マイが通常の状態であったなら、まだ、無理やりではあるが、納得していた。しかし、究極形態(アルティメットフォーム)状態のマイがあっさりと空に消えていったのは信じがたいものだ。  しかし現実として、その事象が起こってしまっているのだから、そこから考えられることはたった一つであり、単純にこの幼女が馬鹿力過ぎるという事だけ。    幼女は虚空への謝罪が終わった後、またぱたぱたと走り出した。そして、おれと目が合う――が、視線を進行方向へと向け直した。  おれを――このおれイグニスを視認しておきながら無視したのだ。まるで虫けらを見るような目で――おれを一瞥しただけ。幼女にとっておれは眼中に無い。そういう意味だろう。    自然と怒りは沸いて来なかった。戦闘面において優秀な、このおれイグニスだからこそわかる。この幼女は異常な程強い。おれなど遠く及ばない、遠い存在。というよりも――次元が違う。  仮にこのおれイグニスが、一般の人間を見ても気にはしない。それは、一般人とおれの間に絶対的な実力差があるからだ。全く脅威になり得ない。ただ、余りにも鬱陶しければ、その限りではない。人間でいうところの蚊を潰す様に。  幼女の目は正にそれだった。おれが一般人を見る目と同じ。つまり、この幼女にとって、おれが鬱陶しいと感じれば――潰されるだろう。蚊と同じように。  ゆっくりと恐怖の感情が襲って来た。同時に、無視されたことに安堵した。  同時にふと、思う。そうだ、遠くへ行こう。あの幼女に出会うことのない場所に行こう。隣町の隣町、いや、もっと遠くへ。県を跨ごう。そこならきっと、そう簡単にあの幼女と出会うことはないだろう。  そして――おれが、それを実行に移すのにそんなに日にちはかからなかった。  この事は絶対にブリザードには報告しない。このおれイグニスはそう誓った。
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