わたしのおうち

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わたしのおうち

 夫の海外勤務に帯同して、三年間ほどアメリカに住んでいた。  元々大の洋画好きであったから、映画の中で見ていた世界で生活できるのが嬉しくて、周囲の駐在員の奥様方が呆れるほどにアクティブに動き回った三年間だったと思う。  米国ならではのガレージセールにもよく足を運んだし、実際に知人と開催もした。要は、自宅版フリーマーケットである。  一般的なアメリカの一軒家には、ビルトインガレージと呼ばれる住居と一体化した屋根付き車庫がついており、そこから道路までをつなぐ、ドライブウェイという来客者の車を停めたり、子供が遊んだりすることができるほどの広さのスペースもある。ガレージセールはそんな場所を使って、洋服やおもちゃ、家具や電化製品などの不用品を個人で販売する。地域によってはタグ(値札)セール、ヤード(庭)セールなどとも呼ばれるが、私が住んでいた中西部の住宅街では、気候のいい春から夏の週末に、よくガレージセールの開催を知らせる案内板を見掛けたものだった。  知人の奥様のご厚意で参加させてもらったある年のガレージセールは、非常に大規模なものだった。十家族ほどが不用品を持ち寄って、その大量の品物を、開催主の豪邸の車三台分ものガレージと、広々としたドライブウェイと前庭のすべてを使って並べて販売をした。  朝早くから訪れるお客さんたちを、時間制で参加家族の奥さんらで対応し、担当時間以外はホスト宅のリビングで、皆で持ち寄った手作りのお菓子をいただきつつお茶などしながら、世間話に花を咲かせた。  賑やかな井戸端話は、やはりガレージセールの話題で盛り上がった。「こんな掘り出し物を買った」「とても信じられないような物が売っていた」などの話が続くなか、 「ちょっと不思議な話があるんだけど」と切り出したのは、ガレージセールのホスト、そのお宅の奥様のアケミさんだった。
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