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会いたい会いたい会いたい
夕暮れの中、午後5時のサイレンの音が鳴る。
吹絵にとって、それは試合開始のゴングに似ている。
世界がループを始めた日。
吹絵は、大量のスプレーをもって、白いコンクリの壁の前に立っていた。
赤いスプレーを、壁へとぶちまける。
頭の中に構図はできている。
昨日描いたのとは違う絵を、もっと、人に伝わる絵を。
昨日は、ハートの入った宝箱にインコが止まっていた。
昨日は、ハートの入った竹に犬が吠えていた。
昨日は、ハート柄のネクタイを、女が男にしめていた。
無限のループの中で、昨日という概念は崩れてしまった。
吹絵にとって、今日以前は、全てが昨日だ。
昨日は、片手をあげた女を描いた。その瞳は空白を見ていた。
昨日は、片手を差し出す女を描いた。その対面には空白を残した。
昨日は、抱擁を行う女を描いた。その腕は空白を抱きしめていた。
辛い時に絵を描くのは、吹絵にとって子供のころからの習慣だった。
塗料を空白にぶつけている間は、全てを忘れられる。
押し込めた、怒りも、悲しみも、憎しみも、無力感も、声に出せない全てを吐き出す。
昨日は、SEEYOUと描いた。
昨日も、SEEYOUと描いた。
今日も、SEEYOUと描いている。
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