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会える会えないかもしれないきっといつか会える
ループが始まって、毎日午後5時にサイレンと共に白い壁の前で目覚める。
吹絵は、毎日そこで、スプレーが切れるまで絵を描き続けた。
ある日、絵を描き終わってしばらくその場を離れた時のことだった。
吹絵の描いた絵が、全く別物に変わっていた。
落書き、グラフィティのルールに、すでに絵が描かれている場所に描くには、描かれている絵よりもレベルの高いものを描かなくてはいけない。というものがある。
誰かが、吹絵の絵をへたくそだと言っていて上書きしたのである。
そして、実際にその絵は吹絵が描いたものよりも数段レベルが高かった。
「こんな描き方があったんだ」
吹絵は、その絵に魅了された。
それからは、午後5時のサイレン以上に自分の絵に上書きされることが楽しみになった。
さっと描いてしまえば、すぐに上書きされるかもと思った。
けれど、そんな不出来な作品を、彼、もしくは彼女に見せたくはなかった。
吹絵が絵を描いて、その絵を上書きされる。
上書きされた絵を見て、また吹絵が絵を描く。
それを繰り返すたびに、吹絵の技術は上達し、吹絵のファンだという人間も現れた。
最初は戸惑ったが、評価されたことは素直にうれしかった。
昨日描いた絵よりも良い絵を描きたい。
いつか、あの人に胸を張って会えるような、そんな絵を描きたい。
そうやって、描き続けた。
そして、吹絵の絵に上書きされることはなくなった。
何度描いても、何を描いても、どうやって描いても、上書きされない。
最初は、喜びだった。
次に不安がやってきた。
最後に、虚無が吹絵の中を満たした。
そんな吹絵の心中とは別に、吹絵のファンは増え続けた。
ギャラリーが増えると、あの人は描きづらいかもしれないと思った。
だから、他の色々な所にも絵を描いた。
どれにも、上書きをされることはなかった。
されていたとしても、あの人とは似ても似つかない稚拙な、落書きだった。
あの人に、出会えない。
そして、今日も、書き終える。
心の中を、出し終える。
「フキエさん!お疲れ様です!」
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