第一章:チーム・コンパスの秘密調査

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第一章:チーム・コンパスの秘密調査

 テレビのスイッチが入ったみたいに、意識がふと浮上した。くぐもった泡沫のような音が、耳奥で鳴り響く。重たい瞼をゆっくりと開けば、ひどくぼやけた視界。何度か瞬きをしてピントを合わせれば、絵画のような青い空が俺を覗き込んでいた。  どこだよ、此処。  最初に思ったのがそれだった。まだ空しか見ていないにも関わらず、此処が知らない場所であることは何となく肌で感じた。空気が、あの空の色が、記憶にあるものと違う気がする。そう思い、今まで見てきた空を思い出そうとするが、不思議なことに何一つ思い出せなかった。  空なんて、何か特別意識をして見るようなものじゃない。だから、記憶にも残っていなかったのだろう。  ひとまずそう自己完結して、俺は起き上がろうとした。だが、まだ体が怠い。動くのも億劫だ。  背に段々と冷たい混凝土のような気配を感じるようになってきた。たぶん道路かどこかに大の字でだらしなく倒れているだろう。そんな自分をぼんやりと想像していれば、突然青空が人の顔に変わった。 「うわぁああっ⁉」  文字通り俺は飛び上がる。鉛のような体の重さが嘘みたいに、俺は跳ね起きた。 「あら、そんなに驚くとは思ってもみなかったわ」  ドクドクと五月蠅い心臓を押さえながら振り返れば、俺の顔を覗き込んだ少女が口元に手を当てて上品に笑っていた。  腰まで伸びる濡羽色の髪に、形の良い耳の近くで留まる青い蝶のヘアピン。見た事のない制服を着こなしたその少女は、絵に描いたような美人だった。 「だ、誰?」とどもりながら問う。 「さぁ? 誰でしょうね」  彼女は未だ座り込んだままの俺を見下ろして、楽しげに口角を上げた。あまり温度を感じないようなその目に、俺は『常識』を思い出して慌てて立ち上がる。 「……ごめん、人に名前を聞くときはまず自分からだよね。俺は西条(さいじょう)(つなぐ)。突然だけど、よろしく」  そう言って手を差し出せば、彼女はその手をいとも容易く取りながらにこりと綺麗な笑みを顔に貼り付けた。 「夕凪(ゆうなぎ)こころ。お久しぶりね、ビビりさんの繋くん」 「ビビりは余計だよ。俺は別に怖がりとかじゃない」 「だってものすごく驚いていたじゃない」 「あれは仕方ないだろ……目が覚めていきなり誰かに覗き込まれたら、誰だって驚くって」 「そういうものなのかしら?」 「そういうものだよ」  呆れながら彼女に言ったところで俺は気が付いた。  ……彼女は今、『久しぶり』と言わなかっただろうか? 「ねぇ、久しぶりってどういうこと?」  振り返ってみるが、彼女と会った記憶はない。そもそも、俺に女子の知り合いなんていただろうか。居たとしてもクラスメイトくらいだろうけど、心当たりはない。 「あら、知りたい?」 「そりゃそうだよ。俺、夕凪と何処かで会ってたっけ?」 「そうねぇ……」  もしこれで初対面でなかったら、かなり失礼な態度になってしまう。だが、聞かずにはいられなかった。  夕凪は、顎に手を当てて綺麗な顔を少しだけ歪ませる。神妙な顔つきに、やはり出会ったことがあるのだろうと、腹の奥が僅かに冷えたような気がした。
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