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「会ったことないわ」
「…………は?」
「面白い顔ね。会ったことないって言ったのよ」
じゃあさっきの間は何だ。変に脱力感に襲われ、俺は呆れ混じりの溜息を吐いた。
「人間って何度も生まれ変わるって言うじゃない。だったら、どこかの人生で会っていてもおかしくないかなって思っただけよ」
「そりゃ随分変わった考えだね」
「そうかしら? 私の中では普通の考えよ」
彼女は目を丸くして小首を傾げた。
まだ出会って間もないが、彼女は所謂『不思議ちゃん』なのだろうと感じた。会話が噛み合っているようで噛み合っていない。おまけに、整いすぎた容姿に、何もかもを知り尽くしたかのような落ちついた声と物言い。俺はこの夕凪こころという少女が、この世の人間ではないような気さえした。
「ところで繋くん。此処がどこだか疑問には思わなかったかしら?」
そういえばそうだった、と彼女に問われて思い出した。俺は知らずのうちに、見知らぬ場所で倒れていたのだ。ようやく辺りを見回したが、そこにあるのは錆びた浅葱色のフェンスと、少し塗装が剥がれた白い外壁。フェンスの向こうに見えるのは、どこにでもあるような普通の校庭とグラウンド。そのさらに奥には、霞んだ田舎の街並みが見えた。
「あぁ。改めて聞くけど、此処はどこ?」
「見れば分かるでしょう? 学校よ」
「確かに見れば分かるけども……」
ここが学校の屋上であることくらい、俺にだって分かる。実際に入ったことはないが、だいたい頭で思い描く学校の屋上といえば、このようなものだろう。
「私立天明高校。この付近では一番大きな学校ね」
「聞いたことないなぁ……。それに、大層な名前」
「気が合うわね。私もそう思ったわ」
思ったことを口にすれば、彼女は意外にも同意してくる。案外気が合うのだろうかと思ったところで、夕凪は不意に俺の手に触れた。
「ねぇ、繋くん。貴方に一つ聞きたいことがあるわ」
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