12人が本棚に入れています
本棚に追加
「席は南雲くんの隣ですね」
担任が一番後ろの窓際の席を見つめた。おそらく、今朝用意された新しい席だろう。「南雲くん」と担任が呼ぶと、空席の隣に座っていた、いかにもスポーツ系だと思わせる活発な生徒が手を上げた。
「ほーい。南雲はオレ! やっぱこれ転校生の席だったんだな」
ニカリと白い歯を見せて笑う南雲という少年は、笑顔のまま俺を手招く。もう一度クラスメイトに軽く頭を下げ、俺は自分の席に座った。
「それじゃあ、今日のホームルームはこれで終わりです。今日も一日、頑張りましょうね」
見るからに優しそうな担任がそう告げると、生徒たちは騒がしさを取り戻しながら一限の準備に取り掛かった。
「あの……南雲、だっけ? 今日からよろしくね」
「おう! 苗字じゃなくて名前でいいぞ」
「いや、名前まだ知らないし……」
「そういやそうだった。オレ、南雲一吹。よろしくな繋!」
「うん、よろしくね一吹」
差し出された手を握り、握手を交わす。正直不安でいっぱいだったが、こうも簡単にクラスメイトと会話をすることができるとは思わなかった。
その日は一吹に学校のことを教えてもらいながら、転校初日にして楽しい学校生活を送ったのを覚えている。下校時に偶然遭遇した夕凪に「転校初日だったけれど、どうだった?」と聞かれたので、自信満々に楽しかったと答えた。
これが俺の転校してきた日の出来事だ。
突然目を覚まして記憶を失い、いつの間にか転校することになっていたけれど、案外簡単に受け入れてしまった自分がいた。
その日から俺は、この学校という小さな世界で生きている。いつしか世界への違和感も忘れ、ただただ学校生活を楽しんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!