行かないで、と貴方は泣いた。

1/5
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

行かないで、と貴方は泣いた。

 背中に回された腕は、震えている。すぐそこから届いたのは、息さえ詰まりそうな声だ。 「ごめんなさい」  十八歳であるはずの、それは。妙に舌っ足らずで――幼い。 「ごめんなさい」  ああ、彼は一体誰に、こんなにも謝り続けているのだろう。  わかっている。今の彼には私のことなどけして見えない、見ることができないなんてことは。それがわかった上で彼を連れ出したのは自分だ。全部思い出して欲しい、なんて私のエゴに無理やり付き合わせて。 「悪い子でごめんなさい。……良い子にするから、独りに、しないで……お母さん」  彼に見えない位置で。握り締められる拳。  この感情に、一体どうすれば名前などつけられるのだろうか。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!