12人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
行かないで、と貴方は泣いた。
背中に回された腕は、震えている。すぐそこから届いたのは、息さえ詰まりそうな声だ。
「ごめんなさい」
十八歳であるはずの、それは。妙に舌っ足らずで――幼い。
「ごめんなさい」
ああ、彼は一体誰に、こんなにも謝り続けているのだろう。
わかっている。今の彼には私のことなどけして見えない、見ることができないなんてことは。それがわかった上で彼を連れ出したのは自分だ。全部思い出して欲しい、なんて私のエゴに無理やり付き合わせて。
「悪い子でごめんなさい。……良い子にするから、独りに、しないで……お母さん」
彼に見えない位置で。握り締められる拳。
この感情に、一体どうすれば名前などつけられるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!