『we're Men's Dream』 -type C- 6

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『we're Men's Dream』 -type C- 6

 ウチは予定通り、高校へと進学をし、軽音楽部に身を置いて名を馳せる。一年生だったので、高学年生からは、やっかまれたが、歌唱力と演奏力でねじ伏せた。でも、そんな日々が終わるのは思っていたよりも突然、かつ早かった。高校一年の冬、父に辞令が下った。父が務めている大手ホームセンターは全国展開をしている。兄もウチも手がかからなくなっていたおかげで(深夜の騒音はさておき)、父は仕事をがんばった。そして、そのがんばりが実ってしまい、支店の中で最も規模が大きい東京への転勤を命じられた。世にいうところの栄転。が、我が家は父子家庭で、母はいない。さびしがり屋の父は、到底単独で上京などできない。 「リューコ、とうさんといっしょに東京行ってくれないか?」  その昔、野球をあきらめたうしろめたさも手伝い、父の要望に抗うことができなかった。もとより、父をひとりにさせるということも考えられなかった。  高校二年生になるタイミングで転校した。父の上役のコネも手伝ったのか、もといた名古屋の高校と、同等レベルの女子高校に入ることができた。転居と転校は譲ったけれど、もちろんすべてを譲ることはできない。せめて軽音学部は速攻で体験しておこう。そう考えたウチは、初日からギターケースを背負って登校をした。  転校初日の昼休みになると、遠巻きに視線を感じた。ギターを背負った転校生。まるで漫画の世界だ。特徴のある見た目のふたりがウチの机に近づいてきた。太っちょと、モデル体型の金髪。太っちょが口を開く。 「ねえねえ、リューコちゃん、ギターケース持ってるけど、ギター弾けるの? ボクはマコっていいます、ドラム叩けるんだ。こっちの子はヌイちゃん。ママがフランス人でハーフ。ベースやるんだ」 「ドモ、ハジメマシテ、ヌイ、イイマス」 紹介された外人顔、金髪のヌイは片言で答えた。 「ああ、……ついでといっちゃあなんだけど、歌も歌えるぜ」  ウチがそう答えると、ヌイとマコは目を輝かせて、お互いを見つめあった。 「ところで、ヌイ? フランス人とのハーフっつったっけ? 『モン・レーヴ』って意味わかるか?」 「てへ、フランス語っぽいけど、わっかりませーん」  ヌイは流暢な日本語で答える。……からかわれたのだ。 「リューコちゃん、いっしょにバンド組まない……?」  巨大なアルマイト製のドカベン片手にマコが言った。安定感がある。 「……いいぜ、いっぺん音合わせしようか」  マコ自宅にある、父親のスタジオ(二十畳くらいある)に招かれて音合わせをした。  曲はニルヴァーナ、スメルズ・ライク・ティーン・スピリット。なぜなら、ウチの岩隈(いわくま)ばりのスナップと、ハスキーボイスを最大限に活かせるから。  マコのフォーカウントの後、ローコードのFメジャーを、スナップを効かせてストロークする。  三人でスタジオ内をグランジサウンドで満たす。マコとミコは、どう見ても異質な異邦者(ウチ)に、屈託なく声がけしてくるだけあって、生半可の演奏力ではなかった。ゆるぎない自分を持っているんだろう。演奏後、マコがシンバルをつまんで消音する。この瞬間、彼女らとのバンド結成は決定的になった。ウチはすかさずに言う。笑みが隠せなかった。 「……さて、と、バンド名どうしようか」 「リューコちゃん、決めていいよ」 「……夢(レーヴ)、が入るのがいいな。レーヴは男性名詞。……ストレートで恥ずかしいけど、「メンズ・ドリーム」ってどうかな。女のウチらが、オトコに代わってロックで夢をかなえてやるって感じで」  野球での挫折。女ゆえに夢が果たせなかったこともアタマによぎる。ツムグのことも。 「じゃあ、きまりだねっ!」  マコとヌイが両手をあわせて飛び跳ねる。一瞬、その背中に天使の羽根のようなものが見えた。錯覚だろうと思ったけれど、新たな夢に、ほんの少しだけ近づけた気がした。  思い出に浸っていると、五右衛門風呂の温度でちょっとのぼせてきた。おねえさんも、ぼーっとしている。 「……おねえさん、おねーさんってっば」  ウチがおねえさんの胸の先端を指でなぞってみると、ほえっ、とあえいで、目をぱちくりとさせる。我にかえったようだ。 「ご、ごめん、なんかぼーっとしちゃって」 「そのスキに思う存分触らせてもらえたんで大丈夫っス」 「……その分、私のも触ってもらっていいっスからね」  と、言いながらおねえさんの右手首をつかんでウチの胸に添えさせる。 「……うん、気持ちいい感触だね。すべすべ。若いっていいなあ」  おねえさんは、何かを吹っ切ったように、冷静になっていた。なに考えていたんだろ?  五右衛門風呂のおかげで、暖気は充分。明日のライブでは、オトコには果たせない夢を見せてやる。ウチは湯舟の中で両手指を鳴らした。 <了>
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