91人が本棚に入れています
本棚に追加
議長にお願い 20
議長にお願い20
きよはそのうち、起き上がる事もままならなくなり、一日中ベッドに眠って居る事が多くなった。
「召使い人形なのに母様達の周りの事ができずに申し訳ありません」
ときよは言ったが、るうは構わなかった。
「きよはそんな事気にしなくて良いのだ。今日は、どんな話をしようか?」
「今日は、私の話を聞いてくださいませ。……御主人様の事です」
るうはぎくりとした。 きよを蹂躙していたという男だ。
るうは返事が出来なかったが、きよは小さな声で語り始めた。
「御主人様は、半島に巨大な勢力を誇る一族の末裔です。魔界と人間界の境界に一族のみで一国を構えているのだという事でした」
魔界と隣接する国に居たというなら、ナルは何かその一族について知っているのだろうか、どうなのだろう。
「御主人様は兄様達の裔子(すえご)としてお育ちになったそうですが、私達だけで暮らしたいとお申し出になり、美しい滝の側に小さなお屋敷を建ててもらって、そこで兄様達とも離れてお暮らしになっていました。小さなといっても、私達からしたら、充分過ぎるくらいの広さでしたけれど」
きよは切れ切れに語り続けた。
「御主人様は、私とまさを大変慈しんで下さいました」
「………、無体な扱いをされていたのでは無かったのか?」
「私はずっと無理矢理奉仕させられている演技をしました。そうすると御主人様はお喜びになるから」
倒錯的だとるうは思った。
どうも話が良く飲み込めないが、きよはそれをあえて聞いておいて欲しい様子だった。
「まさは、私がまさを護るためという名目で、自分だけ御主人様の生け贄になっていると思っていたでしょうが、本当は違います。まさには御主人様を渡したく無かった。御主人様には、私だけを見ていて欲しくて……」
きよはそろそろと手を伸ばし、るうの掌を握った。
「私……白銀(しろがね)様と居られて嬉しかった。母様が私をあの人の所へ送ってくださって嬉しかった」
るうは、きよがどんどん青ざめ、きよの掌が急速に冷えていくのが判った。
ナルを呼びに行かなければと頭では判っていたのに何故かそうする事が出来なかった。きよの瞳の端から涙が流れた。
「私、幸せでした。まさとずっと一緒でしたし、白銀様にたくさん愛してもらえておりました。最後に母様と父様にもお会いできて」
「きよ……」
「……でも、私、あの人を殺してしまった。他の皆も。私にはもう償えないけど、ごめんなさい……」
「……」
きよは瞳を閉じた。その拍子に、また涙が零れた。
「殺してしまった。愛していたのに……」
++++++++++
ナルとるう、医者は、その夕方きよと、トランクに詰められていたまさ、まさと一緒に入っていたきよの核を全部診療所の庭で燃やした。
長い煙がたなびき天に昇っていくのを三人は無言で見上げた。
まさの身体は初め見た時よりは乾いていたので良く燃えた。全部灰になったものをるうは掻き集めて、再びトランクへ仕舞った。
「私、帝都へ帰って、前言っていた、私達の子供だっていう人形、私の顔に似ていない人形を、この子達で造ろうと思うのだけど。もう決して売らないで私達の側に置いて。前も双子だっていう記憶は無くなるけれど、どうだろう」
食卓でるうがぽつりと言い、
「それは良いね」
とナルが賛成すると、やっとるうは泣き腫らした瞳でにっこり笑った。
最初のコメントを投稿しよう!