議長にお願い 21

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議長にお願い 21

議長にお願い21 「なあ、るうやい。瞳はもっとぱっちりしていた方が良くないかい。大きくて、睫毛がとっても長いんだ。良い男を捕まえるにはまず目力だよ」 「いや、瞳は譲れない。笑うと愛嬌があって癒しのある可愛らしい瞳にするのだ。今度は悪い男に引っ掛からないように」 二人は日々図面とにらめっこしながら、双子の子供達について語り合った。それはきよを亡くした淋しさを忘れるためであり、きよとの約束を忘れないためでもあった。 必ず再びまさときよを甦らせる事。それが二人の使命になったのだ。 「名前はどうしようね?るうはもう考えてる?」 「ナルこそどうなのだ」 次の世界があるならば、きっと幸せにしてやろう。二人は、またきよとまさがやって来る時に思いを馳せた。 そんなこんなで季節はめくるめく過ぎていった。 るうは苦心の末、それまでのるうの母親に良く似た美しく可憐な娘に近い型の容姿ではなく、少年とも少女ともつかない中性的な愛嬌のある人形の図面を造りあげた。 二人は髪の毛一本も違わない鏡合わせみたいな双子にするのだ。黒くしなやかで、肩のあたりまでの短い髪。優しそうな瞳にぷっくらした唇、何もかもるうとは反対で、ナルは、 「親子なのにるうにまるで似ていないよ」 と進言した。 「私に似ていなくても、お前に良く似ているから、良いのだ」 とのるうの言葉に、ナルは初めて自分の顔をまじまじと鏡で覗き込んだ。いままで自分の顔などロクに見やしなかったけれど、こういう顔をしていたのか。 眠そうな顔……。 「に、似ているかな、私達」 「親子くらいには良く似ておる」 「子供達は嫌じゃあないかな。お父さんに似たなんて」 ナルがおどおどと言うのがるうは楽しかったし、嬉しかった。 「図面が出来上がれば、後は身体を造っていくだけだ。さほどかかるまい」 それでも、ここまで辿り着くのに半年近くを費した。 双子の製作に取り掛かる前に、次にはどうにかして記憶を止どめておく方法は無いのかとか、色々と調べものなどをしていたりもして、延び延びになってしまったのもあった。 ++++++++++ るうは部屋に籠り、双子の子らと見つめあう日々を過ごした。 そして心の中で、自分がどれ程ナルに屋敷に残って欲しいか、どれ程付いて行きたいか、どれ程救われたのか、どれ程ナルを愛しているのか訴えた。 私は付いて行けないから。 るうはこの所、昼夜問わず良く眠れず泣いてばかりいた。 ナルが隣りにいてあやしてくれればすぐに眠れたが、もうすぐこの日々に終わりが来るのだと思うと、るうは自分からナルを避けるようになっていた。 本当に自分は可愛くないと思う。容姿的にもそうだったし、性格もそうだ。 ああ、この子達には私に無い物を、私が欲しかった物を全部あげよう。私のようにつまらない意地や見栄などで大事な物を失わないように。素敵な人に愛されるように。 私が、この子達みたいに美しい髪だったらな。この子達みたいに艶っぽい唇をしていたらな。若い身体だったらな。 るうは、双子に向かいながら、そう語りかけた。 やがて、るうは双子の召使い人形を完成させた。 ナルはるうの入れ込み様が心配で気にかけていて、るうが中に一人で居て倒れたりしないかと不安で、仕事場の周りを始終うろうろと彷徨って居た。 「ナルー、ナル」 小さなるうの声にナルがすっ飛んで行くと、仕事場の長机の上に一体づつ、人間が眠っているだけの姿かと思われる程精巧な人形達が横たわっていた。 二人は体付きから髪の流れまでそっくりで、きよや以前ナルが会った月などとは系統が違う趣だったが、これはこれで愛らしい顔かたちだった。 「名前を、考えた?」 るうは静かにナルに問いかけた。 「るうから言ってごらんよ。どんなのにしたの?」 二人は互いに渋りながらも、宝物を見せ合うように、含み笑いをして瞳を通わせた。 「……マアサという名はどうかな?真昼ってあるだろう?あんな感じで、新しい朝、明るい朝の真ん中、みたいな意味だよ」 ナルは言った。 「マアサ、良い名前だ」 「この子は?下の子はきっとお母さん子になるよ」 るうは、きよの名を頭の中に綴った。 k、i、y、o……。……k、e、i……、k、e、y……。 「……ケイにする」 「ケイかあ。素敵な名前だね」 るうが言うと、ナルはまばゆいものを見るように瞳を細めて二人を眺めた。ナルが嬉しそうにしてくれたのでるうは良かった、とひとまず安心した。 「良かったら、マアサを連れてって欲しい。私では、魔界へ住む事は出来ないから」 「ええ?良いのかい?マアサは嫌でないかな?お母さんと居るのが良いと言わないだろうか。ケイと離れるのもやだと言わないかな?」 「お前を一人で帰したら、人間界での日々をすぐに忘れてしまうかもしれないだろう?私達の事忘れてしまうかもしれない」 るうが無理に気丈なフリを見せると、ナルは呑気に笑った。 「あはは、そんな事ある訳無いよ」 「あと私、まだ全部お願いきいてもらってなかったな」 「ああ、そうだね。でも有効期限はないから、またいつでも言うと良いよ」 そうは言うが、帰ってしまえば、そうちょくちょくとは戻れはすまい。るうはそれが切ないのだった。 「あといくつ残っているのだっけ」 「るうならいくつでも良いのだよ」 「では、私のお願いきいてくれるか?お前様の寿命を半分私におくれ」 「うん?」 「判るか?私の寿命も差し出そう。互いの寿命を足して二で割るのだ。そうしたら互いはきっかり同じだけ生きられる」 ナルは、るうの話が良く飲み込めなかった。 それは、るうは自分の永い永い永すぎる命に付き合ってくれるという事だろうか? 「るう、それは、とても過酷な事だよ。記憶もずっと残っているのだよ」 「私はケイと暮らして、時々お前様が帰って来るのを楽しみに待つよ。片方が死んだらその時もう片方も死ぬのだよ、だからお前様は無茶な生き方をしてはならないよ。魔界でも常に私や子供達が居るのだと思っていなくてはならないよ」 「ああ、わかったよ」 自分が淋しいからと言って、るうまでこの途方もない永い日々に巻き込んでしまって良いものかナルは、真剣に悩んだ。るうの人生は再生はきかないのだから失敗する訳にはいかない。 けれど、るうは本気のようだった。 ナルは、るうの小さな身体を引き寄せてぎゅうと強く抱き締めた。 「愛しているよ、るう」 「……わ、私だって。お前様が私の事などすっかり忘れてしまっても、私はずっと、あ、あなたを愛している」 るうはナルの背中を掻き抱き、一筋涙を流した。 「おはようございます、お父さん」 声がした。 「おはようございます、お母さん」 また声がした。さっきと全く同じ声だった。 ナルとるうがそれぞれ声のした方を見ると、双子の子達は長机の上で半身を起こしてにこにこ笑っていた。 「オレ達は二人なのですね、二人に造ってくれてありがとう」 二人は綺麗に声を揃えた。
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