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きっと、世界は、誰も信じることなどないだろう。誰もが振り返る、アイドル顔負けの美青年が――中学生までは普通の女の子をしていたことなど。
翔子はバレーボール部のエースで、背は高いものの女の子らしく可愛いものが大好きな、少し内気な少女だった。対して、幼馴染の俺は小柄で元気いっぱいのサッカー少年である。モデルばりに高身長なのだから、もっと胸を張って歩けばカッコいいのに、自信がなくていつも猫背であった彼女。その彼女の背中をバンッ!と叩いて励ますのが、当たり前のように俺の役目であったのだ。
お互い、多少なりに意識はしていたように思う。
ただ彼女はとてもネガティブな性格であったし(小学校の時、背が高いことでいじめられたのが原因だったのだろう)、俺は俺でチビなのが心底コンプレックスで。お互い異性として意識はかけていたものの、“自分なんか相手にふさわしくない、兄妹みたいな関係が精々だ”と思っていたのはほぼ間違いあるまい。
特に俺は、俺のようにな低身長で元気だけが取り柄の奴など、モデルのように綺麗な彼女に釣り合う男とは到底思えずにいたのである。ゆえに、いつか彼女が本気で惚れる男が現れたなら、いつものように背中を押してやるのが自分の役目だと本気で思っていたのだった。
そう、それなのに。中学三年生の、秋――世界はひっくり返って、そのまま戻らなくなってしまったのである。
『お星様の夢を見たの。いっぱいいっぱいお星様が集まって、私を包んで。怖くなって、いつもみたいに玲の名前を呼んじゃって。そしたら目が覚めて……でも』
彼女が泣きながらかけてきた電話を、今でもはっきりと覚えている。
『朝起きたら……私が、私じゃなくなってた。……どうしよう、ねえ、どうしよう玲……!』
自分が助けを求めたせいで、俺のことも巻き込んでしまったのではないか。彼女はずっと、そうやって自分自身のことを責めつづけていた。
同じ朝、女性になってしまった自分に戸惑っていたのは俺も同じだ。けれど彼女の、低くなった声と、同じ中に動揺しきった少女の心を聞いてしまったら。自分自身のことなどより、彼女を救う方法を全力で考えなければいけないと――それができるのは自分だけだと、そんな使命感にかられたのである。
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