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「……私ね、玲が好きなの。ずっとずっと前から、玲のことが好きだった。私がまだ“翔子”だった時から、ずっと」
抱きしめられたまま。嗚咽を滲ませて、彼女は言う。
「いつか、“男の子”の玲に……こうやって抱きしめて欲しいって思ってた。でも……女の子になっても、私を一生懸命守ってくれようとして……一生懸命愛してくれて、助けてくれようとする玲は。私の知ってる玲と、全然変わんなくて。……私、いつの間にか……女の子の玲のことも、大好きになってた。それで、気づいたの。私、ずっと女の子の心のまんまだと思ってたけど……いつの間にか、それだけじゃなくなってたんだって」
それは、俺も同じだ。口にはできないまま、心の中で呟く。
だってそうだろう。バカみたいな、話。本当は何度も何度も、“男”になった翔子を思って夜、自分を慰めて来たのだから。
自分達は恋人同士になって、同棲までしているのに、今まで一度も深い仲になったことはない。それは出来ないことだと思い込んでいたと言っても過言ではないのだ。それが許されるのは、お互いあるべき性別に戻ってからでしかないと。
でも、もう。いつの間にか自分達は、あれから十年も過ぎてしまった。
結婚しても、なんらおかしくはない年齢に。
いつまでも結論を先延ばしにするべきではないと、そう考えるようになるくらいの年に。
「どうして、こんなことが起きちゃったのかわからないけど。でも多分、戻る方法が見つかっても私達……完全に、元には戻れないんだと思う。私の心ももう、半分は男の子だから。それをどっかで、認めつつあったから」
「翔子……」
「いつも、守ってもらって、いろんなことを優柔不断な私の代わりに決めて貰ってばかりだったから。今日は、私から言わせて」
そっと、優しい体温が離れていく。
怯えた少女が宿っていた、青年の瞳には。今、それだけではない、芯の強い光がある。
キラキラした涙の奥に。強い決意の色がある。
「私と……武内翔と、結婚してください。……ううん、結婚してくれ、玲!お前が、好きだ!」
馬鹿だな、と俺は思う。
そんな風に、無理に男らしくしなくたっていいのに、と。
俺だっていつの間にか――男とか、女とか関係なく。どんな性別でもいい、目の前にいるたった一人が本気で好きになっていたのだから。
「……そのまんまの、お前でいいよ。翔子でも、翔でも、俺はどっちでもいい。好きになったのは、おんなじ存在だから」
応えるために俺は、思い切り彼女の、彼の、腕に中に飛び込んでやったのである。
「俺も、お前の子供が産みたい。これからも……ずっと一緒にいよう」
世界は夕焼けに染まっていても、今の俺達にとってその黄昏は、夜明けと等しく変わらない。
ここからもう一度、始まるのだ。二人だけの、新しい物語が。
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